リアリティー回想記 「サトル」

「リアリティー’88」の月一シリーズを連載している最中の事です。
古い記憶なので詳細は事実と異なるかも知れませんが、「女学生が休日、友達通しで海を見に行き、その後ビルの屋上から一緒に投身自殺をした。」という簡潔なテレビ報道がありました。彼女たちの自殺の動機・原因は不明。結局、続報もなかったように思います。

その時は、若い子が自ら命を絶つという現実に心を痛めた私でしたが、情報があまりにも乏しかった分、「何があったんだろう?」と様々な想像が頭の中を巡っていきました。

彼女たちは友達通しで「海を見に行った・・・」その後ビルの屋上に上って夕刻、暮れゆく街を見下ろしただろうか・・・夕焼け、星空・・・そして手をつなぎ・・・

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リアリティー回想記 「高野聖」 後編

原作、泉鏡花の「高野聖」は執筆以前から書棚にありました。
このシリーズ連載ですでに漱石の「夢十夜」を原作として扱ったこともあり、何気に読み直してみようと手に取ったのが運命的でした。

まず物語の起点(若者が旅僧から不思議な話を聞かされる場所)となる越前敦賀。
ご存知の通り福井県(若狭湾沿岸一帯)は原発銀座と呼ばれるほど原子力発電所が集中し、敦賀原発は古くから運用されていて有名でした。
そして物語前半に漂う不吉な影。たとえば「山したの方には大分流行病(はやりやまい)がございますが、この水は・・・」「川の水を飲むのさえ気が怯けるほど・・・」「ここいらはこれでも一ッの村でがした、十三年前の大水の時、から一面に野良になりましたよ、人死にもいけえこと。ご坊様歩行(ある)きながらお念仏でも唱えてやってくれさっしゃい。」
旧道を行く僧の前に現れる蛇、蛇。道をふさぐ大蛇をまたぎ大森林へ。そこは山蛭で充満(いっぱい)の森。
発想はパズルを組み合わせるように原発問題へと飛んでいきました。

私の漫画のエンディングに引用した「およそ人間が滅びるのは・・・それが代がわりの世界であろうと、ぼんやり。」の部分は原発事故そのものを暗喩していると思えてネームを一気に書き上げました。
もっとも困難だったのは実際の原発事故がどのようなものかと想像し描く事でした。物語のクライマックス、原作では妖しい美女の住む孤家のまわりでおこる嘶き声、話し声の怪異。私は原発事故で否応なく村を追われた人々の生霊もしくは残留思念を、障子に映る夥しい人の群れとして表現しました。

よろしかったら泉鏡花の原作をお読み下さり私の作品を再読いただければ、よりいっそうご理解いただけると・・・。

次回は「サトル」です。