悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (113)

第三夜〇流星群の夜 編集後記

僕は満更(まんざら)でもない気持ちに包まれていた。
そして‥‥隣に寄り添っている彼女の存在をあらためて確認した後、完全に時間を止めるべく、ゆっくりと静かに目を閉じた。
やがて、眠りにも似た静寂が僕の意識に訪れようとした束(つか)の間のまどろみに‥‥、儚(はかな)い打ち上げ花火の最後の一発の様な光景がスッと忍び込んできた。

星が流れる。流れていく。
いくつも、いくつも、いくつも。青紫色の尾を引いて、夜空一面に流星が降りそそぐ。
僕と彼女は丘の上にいて、寄り添ってそれを見上げている。
こんな見事な流星群は生まれて初めて見た。彼女を誘った甲斐(かい)があった。

流星はみんな人間の形をしていて、燃え尽きる事なく地上に突き刺さっていった。
「見て!お父さんとお母さん!」頭上を横切る流星の一つを指差して彼女が叫んだ。
「こんな時まで、二人仲良く手を繋(つな)いでる‥‥」彼女は呆れた様に笑った。
「ほんとだ‥」僕もつられて笑った。

そんなひと時の余韻を味わいながら‥‥‥‥僕の時間は止まった‥‥・


以上は、書き忘れた要素を盛り込んで書き直した、最終話の途中から続く新しいエンディングです。
『流星群の夜』は、原案にこのイメージがあったからこそ付けたタイトルだったわけです。
前回分に手を加え書きかえてしまうより、ここで新たにお目にかけた方が良いかと考えました。

『流星群の夜』は本来、もっと幻想的で夢らしいお話の案でした。
時を経て今回読み物にするにあたって、否応(いやおう)なく盛り込む事になってしまったのは、お分かりかと思いますが、東日本大震災と新型コロナウイルス渦での経験でした。
書き始めた当初は十回ほどで終わると思っていたものが、結局その倍以上の長さになってしまいました。SF的な色彩が随分出てしまったし、振りや伏線で回収処理できなかった部分も多々ありましたが、そのあたりはご容赦ください。
ご愛読いいただいてありがとうございました。

次の『第四夜』ですが、『遠足 ヒトデナシのいる風景』を予定しています。今までで一番ホラー色の強いお話になると思いますが、よろしかったらまたお付き合い下さい。