悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (88)

第三夜〇流星群の夜 その二

まるで灰色の石のごとく‥硬くなって、次から次へと死んでいく人々‥‥‥‥‥。

日本では遺体は火葬されたが、従来通りには燃えなかった。髪の毛などの表面の組織が多少目減りしたかに見えるだけで、蘇生が約束されたミイラの様に全身の形をしっかりと留めて燃え残った。そしてそれは、砕こうにも砕けない石の硬さを持っていた。土葬の頃と違って、現代の一般的な細かく区画した墓所には、燃え残った遺体は入らなかった。
遺族や関係者が埋葬場所に頭を悩ませていた矢先、謎の病で死んでいったすべての遺体から(もちろん火葬されたが燃えなかった遺体からも)、強い放射線が出ている事が発覚した。
以来、この謎の死を遂げた遺体のすべては、「放射性廃棄物」として処理される事態となった。

日本以外の国でも同様であった。米国などは今も土葬が一般的だが、土壌が汚染されるとして、すでに埋葬済だった遺体はすべて掘り起こされ指定された場所に集められた。

この地球上に広まりつつある病とそれに伴う死‥‥・は、一体何なのか? なぜ、遺体から強い放射線が出るのか?
誰もまだその答えを持っていなかった。
インターネット上では、当然のごとく、「謎の病 謎の死」そして「謎の放射線」についての膨大な情報が飛び交い始めていたが、そのほとんどが眉唾物の書き込みに過ぎなかった。例えば、「某国が開発中の化学兵器のフィールド実験である」とか、「とある大手製薬会社で研究開発中だった抗がん剤の非合法な人体実験の結果だ」などなど‥‥、どこかで見た事のあるサスペンス小説やSF映画みたいな内容が並んでいた。
しかしながら、中には信憑性のありそうなものも見受けられて、米国CDC(疾病対策センター)の匿名職員の個人的な見解とする書き込みは、フェイクニュースにしては真実味があり興味深いものであった。謎を究明している最前線に立つ彼は言う。「問題の放射線であるが、患者が倦怠感を訴え衰弱して死亡するまで、まったく検出されていなかった。検出され始めたのは、遺体が死後六時間以上経過したあたりからで、これは、患者の体の組織を変質させて死に至らしめた『何かの存在』が、宿主細胞の死滅で自らも崩壊し、放射線を出した‥・と言う解釈が成り立つのではあるまいか。肝心なその『何かの存在』は未だに確認されてはいないわけだが、私は未知の病原体の存在を信じている。もしかするとそれは、地球の外からもたらされたものかも知れないし、我々が、取るに足らない在り来たりの細菌だとかウイルスと考えているものに、巧妙に成りすましている気さえする。とにもかくにも今の事態を打開するには、我々人類はまったく新しいレンズ(視点)、まったく新しいスケール(尺度)を持つ必要があるのかもしれない。本当の意味での、持続可能な未来を手に入れる為に‥‥‥。現在の時点で報告されている全世界での死者数は9千万人を超えたが、必ず死亡するであろう患者を含めると、おそらく既に1億人に達すると推測される」


満天の星空を望む丘は静寂の中にあり、地球がゆったりと自転していく時だけを刻んでいた。
草の上に並んで座る僕と彼女。寄り添い、僕の右肩に頭を傾けて彼女が言った。
「人類は‥‥‥‥滅ぶの?」
少し間を置いて、僕は答える。
「‥‥たぶん‥‥‥‥‥‥」

次回へ続く