ぼくらのウルトラ冒険少年画報 (18)

第三話「秘密基地」 その七
夕暮れ時、大量に発生した小型の赤いトンボが突然町中にあふれ出し飛び回る日があります。
それはまるで自然が用意した秋の到来を告げるイベントで、流れる汗をそのままにたった一匹のオニヤンマを追いかけまわした夏休み、すでに絵日記に書いてしまった数々の夏、その残光が飛び交う赤トンボの数えきれない流線とともに徐々に町から一掃されていくような幻想的な光景でした。

「基地の一件」でむしゃくしゃしていた私は、駄菓子屋に立ち寄ったあと再び自転車にまたがりあてどなくペダルをこぎ出しました。

駄菓子屋のショウウィンドウに飾られた手に入らないプラモデルの事を考えてみても気が晴れるわけではありません。むしろ逆効果でますます気が滅入っていく自分をどうコントロールしていいのかわからないようなハンドルさばきで自転車をはしらせていきました。

ふと我に返ったのは「音」が聞こえたからです。
(・・ピアノ・・・?)
音はそれきりでした。気が付くと普段はあまり立ち入らない地域にいます。
自転車をとめ今いる場所を確かめようとした時、新たな「音」が耳をかすめていきました。
「えっ?」
声の破片です。会話なのか叫びなのか、それとも私に向けられた呼びかけなのか・・・そのほんの一部分が耳に届いた感覚です。
ただその声が女性のものであるという事だけははっきりとわかりました。

辺りを見回す私。数軒の民家が窮屈そうに建っています。右後方に首を傾けていった時、少々奥まった場所に他の家から距離を置く垣根と庭がある小綺麗な建物が目に留まりました。洋館とまではいかないまでも、壁や窓の作りが他とは違う雰囲気を醸し出していました。

(あそこ・・・・・)
そう思いました。
時が止まったようにしばらく眺めていました。
窓があります。回り込んで正面から見てみたい好奇心に捕らわれ始めました。

次回へ続く。「秘密基地」完結です。