第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百八十
「 おまえの『ヒトデナシ』は‥‥ 今どこにいる? 」
「 えっ?? 」
ぼくは、当惑した。突然のヤツの問いかけの意味が、まったく理解できなかったのだ。
「 こっちで用意して操(あやつ)っていた『ヒトデナシ』には、おまえのシナリオに沿って行動をさせて来たつもりだが‥ だが、どうもそれ以上のことが起こっていた痕跡がある。だから聞いてみたんだ‥‥ 」
「 ‥つまり、きみが出現させた『ヒトデナシ』以外にも『別のヒトデナシ』がいて‥‥ それが『ぼくのヒトデナシ』だって言いたいわけか? 」
「 ああ、その通りだ。この世界を拵(こしら)えたのはおまえ自身だからな。つまり、遠足の目的地である『ハルサキ山』が拵えられた時、『ヒトデナシ伝承』と『巨大迷路廃墟』もそのセットとして、全てを引っ括(くる)めて同時に創造されたと考えるのが妥当だろう。‥違うか? 」
「 ‥‥‥う‥む 」 ぼくは、返す言葉に窮(きゅう)した。
違うか? と問われれば違わない気がするが、ぼくにはやはり自覚はなかった。
ただ、違和感みたいなものを持ち続けていたのは確かだ。
ぼくはこの遠足に来て今に至るまで、一度も『ヒトデナシ』の姿を目撃してはいない。出現情報のそのほとんどは、モリオとツジウラ ソノ、フタハやミドリたちから齎(もたら)されたものだ。もちろん、出現直後の生々しい傷跡は見ていて、ばらばらに千切れた風太郎先生の体や血まみれになった葉子先生の背中‥、手首を切断された後、巨大迷路廃墟の外壁に腹部を切り裂かれ逆さまに吊るされた水崎先生の変わり果てた姿‥などで、その臨場感をそれなりに味わっていた。そして、その水崎先生の行方を辿(たど)って巨大迷路廃墟の外壁にたまたま接近していたぼくは、水崎先生の死体の隣に、教頭先生の死体が彼女と同じ様に吊るされていく正(まさ)にその瞬間を、偶然目撃している。その時は、『壁一枚隔(へだ)てた向こう側』に何者かがごそごそと動き回る気配がしていて、その者こそが『ヒトデナシ』本人に間違いないと思った。
そんなニアミス的な状況や、遠くから聞こえて来た『逃げ惑うみんなの悲鳴らしき声』などのぼく自身の体験と、モリオたちみんなが語って聞かせた遭遇情報を、頭の中で大まかな『時系列(じけいれつ)』として並べてみると、『ヒトデナシ』が二つの離れた地点にほとんど時間差なく現れていたり、人まねをする声や気配を、同時に複数の違う場所に残していたことに気づかされるのだ。
「 つまり‥‥ 『ヒトデナシ』はこのハルサキ山に複数いて‥‥ ひとつはヤツがシナリオに沿って、『シナリオ通りに操っていた ヒトデナシ』と‥‥‥ もうひとつはぼく自身が、『ハルサキ山とセットでいっしょに拵えた ヒトデナシ』だと?‥‥言うことか?‥‥‥ 」
顔を伏せたまま呟(つぶや)いたぼくの独り言に、コクリと頷(うなず)くヤツの葉子先生姿が‥、目の端(はし)に映っていた‥‥‥‥
次回へ続く