悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (299)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百八十四

「 おまえは気づいていないようだが‥ 」と言う、ヤツの指摘は正しかった。
忘れている何かの記憶を思い出そうとした時、恐らくは精神的な作用によって耐え難い頭の痛みが襲ってくるということを幾度となく繰り返すようになっていた。その『頭痛』が、事実ここしばらくの間、すっかり鳴(な)りを潜(ひそ)めていたのだ‥‥‥‥

「 ‥まあ、いいさ 」 固く氷の様に黙り込んでしまった僕を見て、ヤツが言った。 「 おまえがいつまでたっても『自覚』しなくても、物事は着実に進行しているということだ。まったく『おまえのヒトデナシ』は、良く働いてくれる 」

「 ぼ‥ ぼくのヒトデナシが‥‥ 良く働くだって?! 」 ヤツのそんな言葉に、ぼくは思わず反応していた。

「 ああ、そうとも。 『オレのヒトデナシ』は、あくまでも『おまえの描いたシナリオ』を的確(てきかく)且(か)つ円滑(えんかつ)に進行させるために、オレが出現させ操ってきたものだ。例えば、この遠足の継続を阻(はば)む存在の徹底的な排除で言うならば、先乗りした水崎先生が行方不明であることを知り、遠足の中止を決断して関係各所に連絡を取ろうとした教頭先生の排除実行。その際の行きがかりで風太郎先生を破壊し、葉子先生を行動不能にした。その後は、予定通り定刻に児童を乗せて帰るためにここに到着しようとしていた送迎バスとその運転手の排除。偶然ではあるが、たまたま巡回で接近して来たパトロールカーと警察官二名を排除‥‥ 」

「 み‥水崎先生が、最初に排除されたのでは‥‥ なかったのか? 」

「 水崎先生を排除したのは『おまえのヒトデナシ』だろう 」

「 え?‥ 」

「 駐車場に到着した水崎先生の前にわざと姿を現して、不審な行動を見せつけ、わざと通報させようと仕向けたんだろう。そうしておいて、排除した。『おまえのヒトデナシ』は、オープニングセレモニーを欲していたんだろう 」

「オープニング‥セレモニーだって??‥‥ 」

「 ふん、だってそうだろう。おまえがこの遠足を楽しむための余興(よきょう)の一つとして、まずは『赤い花』を飾りたかったんだろうよ‥‥‥ 」

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (298)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百八十三

ぼくの頭の中へ送られてきた、巨大迷路廃墟をぐるりと連なって取り囲む外壁(そとかべ)の異様な映像。
そこにまるで狩猟の成果でもあるかのように、腹を切り裂かれた上で逆さまに吊るされている犠牲者の総数は、今現在の時点で百二十一人であると‥ヤツは言った。

ぼくはたまらず問い質す。「 ‥これをやってのけたのは‥‥ 『おまえのヒトデナシ』なのか? それとも‥『ぼくのヒトデナシ』の仕業(しわざ)なのか?‥‥ 」と‥‥

「 ククッ いい質問だ 」 ヤツは笑った。 「 ここでお互いの『ヒトデナシ』の立場を明確にしておくことは、何にしても必要だろうさ‥ 何よりもおまえ自身の『自覚』の為にもな‥‥‥ 」
そう言って、ヤツは語り始めた。


「 そもそも‥『この遠足』では、 おまえ自身の描いたシナリオに沿って全ての物事が進行し、最終的にこの世界を拵(こしら)えるに至った原因の歪(ひず)みを修正し、さらにはこの世界をすっかり終わらせることが目的なのだ。今、おまえがはっきりとそれを自覚できていなくても、その目的はおまえ自身がずっと望んでいたことなんだ。分かるか? 」

「 ‥‥‥‥分かって‥いる、ような気がする‥‥ 」 それがぼくの、正直な答えだった。

「 ふん、まあそう言うしかないんだろう‥‥。しかし、おまえは気づいていないようだが‥ おまえを悩ませていた『例の頭痛』は、いつからおまえを悩ませなくなったんだ? 覚えていたなら、ぜひとも聞かせてくれ! 」

えっ!? 」 ぼくは思わず驚きの声を上げていた。
まるで不意打ちのごときヤツのその指摘は、ぼくを一瞬のうちにフリーズさせてしまった。

次回へ続く