悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (301)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百八十六

明日の死を覚悟した者が、今日という一日を‥‥
何事にも左右されず、邪魔させず‥‥
悔いなく生き尽くそうとしている‥‥‥ か‥

ぼくは、ヤツが言った言葉をゆっくりと頭の中で反芻(はんすう)し、それまでのヤツの指摘を加味しながら、ぼんやりとその意味を考えていた。

ヤツの例えた『死』ではないが、自分が今抱えている感情を突き詰めるしかできないことで漂い始めていた『破滅の気配』を、実は薄々感じ取っていた‥‥‥
この遠足を『楽しんでいる』つもりはなかったが、『娘を失ってからも容赦なく継続していく残酷な日常』からは、『束の間(つかのま)解放されている』という感覚は、確かにあった‥‥‥
しかし、『知らず知らずのうちに巻き込まれてしまった、通りすがりの第三者』あるいは『何も知らない善良な者』などと、自分を装っているつもりはさらさらない‥‥‥‥‥


「 やれやれ‥ 」 ヤツが不満の声を漏らした。
おそらく勝手に思考を読み取り、依然として煮え切らないぼくのそんな状況を知り、つくづく呆(あき)れ果てたのかも知れない。
「 ここまでおまえが、真に『自覚』することを、遥か遠くへ押しやってしまっているとはな‥。ここまで来てもまだそうやって平然と振る舞えているのはきっと‥‥、おまえが『おまえのヒトデナシ』に、人として親として夫として‥、到底(とうてい)看過(かんか)出来ない部分を全部、肩代わりさせているからだろうよ 」

「 道理(どうり)で『おまえのヒトデナシ』は‥ よく働くわけだ‥‥

次回へ続く