悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (304)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百八十九

「 百二十一人もの人の腹を裂いて‥内臓を引き出した行為には‥‥ まったく別の目的があった‥‥ 」
ぼくはヤツの言葉を、まるで他人事みたいに繰り返していた。ただそうしただけで、心当たりのようなものは何も、頭の中に浮かんでは来なかった‥‥‥‥

そんなぼくの様子を、やはりそうかと言わんばかりに呆(あき)れ顔で眺めていたヤツだったが、気を取り直してふたたび、語り出した。
「 ‥おまえは思い出さない。思い出すことをしない。そういう風に自分をコントロールしているからな‥。 しかし、いいか? この世界で起こっていることは、これから起ころうとしていることも含めて全部、おまえ自身が蒔(ま)いた種によって具現化(ぐげんか)し、具現化されていく事象なんだからな 」

「 ああ‥ きっとそうなんだろうとは‥思う‥‥ 」 ぼくは答えた。

「 だったら、聞かせてくれないか? おまえが自(みずか)ら『遠足の行先』」に選択し、わざわざ念入(ねんい)りに拵(こしら)えたこの世界が、どうして『ハルサキ山』だったのか? 」

「 えっ? そっ それは‥‥ きっと『ハルサキ山』が、小学生の遠足に相応(ふさわ)しい場所‥だったからだろう。景色のいい芝生広場があるし‥‥‥ 」

「 質問を少し変えよう。 だったら、どうして『ヒトデナシ伝承(でんしょう)』のある『ハラサキ山』だったんだ? 」

「 えっ!? 」

「 おまえは、『ハルサキ山』が『ハラサキ山』と‥ 地元の人々に呼称されているきっかけとなった『ヒトデナシ伝承』に詳しい。 違うか? 」

「 くっ 詳しいかどうかは分からないが‥ 小さい頃に年寄りや、子供を怯(おび)えさせたい周りの大人から、時々聞かされていたことが全てだよ。実際そんな事件が本当にあったかどうかを考えてみると、怪しいと思えるような内容だったはずだ‥‥‥ 」

「 良かったら‥、そいつを聞かせてくれないか? はっきり覚えていないなら、印象に残っている部分だけでも構わない 」

「 ‥‥いや 真偽(しんぎ)はさておいて、概要(がいよう)くらいなら今でも話せる。 確か‥明治の時代が始まったばかりの頃に、はるさき山にあった小規模な集落で起こった猟奇殺人事件が、『ヒトデナシ伝承』の発端(ほったん)だ。老若男女を問わず赤子に至るまで、村人五十数名全員が、腹部を刃物で切り裂かれた死体となって発見された。頭が変になって消え失せた村人何某(なにがし)の仕業に違いないとか、維新後に燻(くすぶ)り続けた動乱のとばっちりだったとか、色々取りざたされたらしいが、結局事件の謎は解明されず、犯人も捕まってはいない‥はずだ 」

「 ほお‥ しかし、それがどうして『ヒトデナシ伝承』として語られることになったんだ? 」

「 それがどうも‥ 腹部を切り裂かれて殺された全ての死体の腹の中から、肝臓だけが切り取られて無くなっていたんだ‥‥‥‥ 」

「 ほおおお! 」
いきなり、ヤツの声のボルテージ が上がった。見ると、葉子先生の顔をしたヤツの口元には、人を小馬鹿にした『歪んだ笑(え)み』が張りついていた。

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (303)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百八十八

百二十一人の中(うち)の‥ 百十七人だって!!?‥‥‥‥

問い質した答えとしてヤツが口にした百十七という数字に、ぼくは驚愕(きょうがく)を通り越して、只々(ただただ)時が止まったみたいに硬く凍りついてしまった。

「 そこまで驚くことは無いだろう。当然の成り行きさ‥ 」 やつは冷たく言い放った。 「 それに『オレのヒトデナシ』が手を下した四人にしたって‥、この廃墟まで運んで腹を裂き、その後 外壁(そとかべ)に吊るしたのは『おまえのヒトデナシ』なんだからな。つまり、今 外壁に並んでいる百二十一人の死体は全部、『おまえのヒトデナシ』が吊るしたものだぜ! 」
最後通告の様な、そんなヤツの言葉だった。ぼくの全身の毛穴から、冷や汗が一気に噴き出した。

「 おまえは『おまえのヒトデナシ』に汚い仕事を全部押しつけて、そうやって何も知らなかったみたいに驚いてられるが‥‥、この仕事の徹底ぶりを振り返ってみると‥、『おまえのヒトデナシ』にとって‥つまりは忘れているおまえ自身にとってもこの仕事は‥‥、他の何よりも優先させるべき 最重要事項 だったのかも知れないな‥‥‥‥ 」

「 なッ! 何をバカなことを言ってるんだ!? 」 咄嗟(とっさ)にぼくの口から、反論が飛び出していた。ヤツの意味不明の物言いに、だんだん腹が立って来たのだ。
「 あんな!切り裂かれた腹から飛び出した内臓を『大きな赤い花』に見立てて! そんな死体を廃墟の外壁ぐるりに百二十一体も吊るして見せて! それがどうして最優先の!最重要事項だって言うんだ?! 」

しかし、ぼくの反論に対して、ヤツは淡々と冷静に こう反論した。
「 ふん‥ 巨大迷路廃墟の外壁への『大きな赤い花』の飾(かざ)りつけは、あくまで副次的(ふくじてき)なものに過ぎない。大勢の人々の腹を裂いて内臓を引き出した行為には、まったく別の目的があったんだ。その目的はおまえが一番よく知っている‥‥ はずなんだがなあ‥‥‥‥ 」

次回へ続く