第一夜〇タイムカプセルの夜 その六
恐らくは‥‥・土の中に埋まっているであろうもう一つの校舎‥‥‥‥
掘り出されたその入口部分のトビラの前に‥‥俺と委員長は立っていた。
後方には‥・裁判員の如く見守る山崎‥木村‥小川‥高橋と山本‥‥それに傍聴人のかおりが控えている‥‥‥‥‥
不本意ながら、俺は中に入ることを既(すで)に承知していた。それが、自身の潔白を証明する一番の近道と考えたからだ。
ただこの時、みんなには悟られないように気をつけていた感情がある。委員長の同行を申し出る言葉に、俺はときめいていたのだ。
委員長と二人きりになれる‥‥‥俺はそんな機会を待っていたのかも知れない。
小川が気を利かせて、委員長と俺にライトを渡そうとした。
「いらないわ。目が慣れたら中は暗くなさそうだし‥‥それに眩しすぎる光は、小さな光を全部吞み込んでしまうもの‥‥‥そういう些細(ささい)な光の中に見え隠れするものこそ、決して見逃してはいけない、見逃したくないのよ‥‥‥・」
委員長は意味深(いみしん)な言葉で断った。俺も、結局受け取らなかった。
「行きましょう」
「‥ああ」
今更ごねるつもりは無い。開いたトビラの隙間に、委員長そして俺の順番に体を滑り込ませた。
カコーン‥‥・
慎重に歩を進めたつもりの足先が、何かに乗っかっていた。敷かれていた簀の子(すのこ)だ。その端が少し浮いていて、乗っかった拍子に板が床を叩いて乾いた音を響かせたのだ。
「‥そうか‥‥‥そうだった」
辺りを見回すと、下足箱が記憶通りの配置で並んでいた。
「懐かしい音ね‥‥」委員長が呟いた。
俺は、そこから奥へと続いている長い廊下に目を向けた。見る限りやはり地上にある校舎と、外観だけではなく中身までまったく同じものである。
ただ、この時、奇妙なことに気がついた。
建物の中は確かにほのかに明るかった。しかし、天井にあるどの照明も点いていないのだ。むろん窓から射す外の灯りではない。ここは入口以外まだ土の中なのだから。
よくよく観察してみると、まるで‥‥壁や床、天井自体が微かに発光しているように見える。
「気味が‥‥悪いな‥‥‥」
「そう?見慣れた場所じゃないの」
委員長が振り向いて、トビラの外に待機しているみんなに手を挙げた。それが合図だったのか、木村と小川が二人掛かりで、開いていたトビラの隙間を閉じ始めた。
「おっ おい!いったい何のまねだ?」
さらには、閉じられたトビラの外から土を掛けている。
俺はトビラの汚れたガラス越しに、その光景を呆然と眺めていた。
委員長が俺の方を真っすぐに見てこう言った。
「人は、選択肢の数だけ迷いが生じるものよ‥‥‥」
委員長が、静かに俺の手を取った。
次回へ続く