悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (19)

第一夜〇タイムカプセルの夜 その四

とんでもない‥・タイムカプセルを‥見つけちまったもんだ‥‥‥‥‥

俺は、この訳の分からない事の成り行きについて、誰かに説明してもらいたかった。
「なあ‥・俺も黙ってここまで付き合ってきたけどさ、こいつが本当に、俺たちが卒業記念に埋めたタイムカプセルなのか?」
「‥‥‥‥‥‥」答える者はなかった。穴の底にいる木村は別として、山崎と小川は目を泳がせ、高橋と山本は互いを見やったまま言葉を探している。委員長でさえ真っすぐ俺を見たきり、固まっていた。

「ひょっとしてこれって‥あんた自身が仕掛けたサプライズだったりして‥‥。あんた子供みたいないたずらが好きだもんねーえ」部外者のかおりが、茶化す様に俺に言った。
「バカか?おまえ。意味わかんねえよ‥‥」かおりがここにいる意味も全然わからないと俺は思った。

「僕‥‥知ってるよ‥」唐突に声がした。
俺は振り向いた。みんなも、声の主に目を向けた。

十メートルほど離れた場所に、人の形のシルエットが立っていた。
よくよく目を凝らして見ると、さっきまで鉄棒で逆上がりの練習をしていた島本ではないか。
「今のって、島本くんの声?」「久しぶりに聞いたよ!百年ぶりくらい」高橋 山本コンビが言った。

「埋めるのを見てたよ‥‥」島本は呟く様に言葉を続け、ゆっくりと俺を指さした。
「君が‥埋めるのを見てたんだ‥‥‥‥」

「やっぱり!」透かさず、ゆかりが反応した。
「なっ‥何言ってんだ?こいつ」俺は目をむいた。「おまえ何言ってんだよぉ島本‼」
俺は掴みかからんばかりの勢いで、島本に近づいていった。
しかし島本は俺を待つことなく、背後の暗闇にあっと言う間に溶けて見えなくなった。

「‥‥‥‥‥‥」俺は立ち尽くしていた。みんなの視線を背中に感じた。
「俺は埋めてない!第一あんな大きなものを埋められる訳がない!」振り向いて訴えた。弁明ではない。俺は本当にやってなかったんだ。

委員長が、真っすぐ俺を見ていた。
‥‥そうだ。委員長はどんな時だって目を逸らさず、真っすぐ俺を見てくれる。それが委員長だ‥‥‥。
そして彼女が、口を開いた。
「あそこにあるものが本当にもう一つの校舎の入り口で、校舎全体がまだ土の下に埋まってるのなら‥‥‥、とやかく言う前に中に入って確かめてみるべきよね。違う?」

ガラガガガゴォー!
再びグラウンドに機械音が響き渡った。
小川がショベルカーを器用に操り、穴の底まで歩いて行けるなだらかなスロープを拵(こしら)えてくれた。
実に気が利く男であった。

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (18)

第一夜〇タイムカプセルの夜 その三

えっ‥‥マジで?‥‥‥‥

木村、高橋と山本、かおり、委員長が、それぞれ手にしていたスコップやシャベルを放り出し、グラウンド中央の巨大な穴に向かって一斉に走り出した。
俺もみんなの一番後ろから、釣られるように近づいていった。

穴の縁(ふち)に腰を浮かせる様に立ち、恐る恐る首を伸ばして覗き込む。
人力では到底及ばないであろう機械で掘られた穴は、横に大きいだけではなく、かなりの深さにまで達していた。底の方は暗くてよく見えない。
「いったいどこにあるのよ?」
「暗くて何も見えやしないじゃない‥」
高橋と山本が透かさずツッコミを入れた。

ヘルメットを被ったままショベルカーから降りて来た小川が、何処から持ち出してきたのかフラッシュライトを二個、山崎と木村に渡した。
「気が利くじゃないか」山崎は今夜何度目かの賛辞を小川に送った。

パチリパチリとスイッチが入り、四、五メートルの深さはある暗闇の底にふたつの光の環(わ)が交錯した。
「‥‥どこに‥あんだよ?タイムカプセル」俺は山崎に問いただした。
山崎の持つライトの光が、ある箇所で留まった。
「‥そこだ。よーく見てくれ」
一同、ライトの光の環の中に目を凝らす。木村が、持っているもう一つのライトでその周囲を照らし、空間を立体的なものに見せた。
「‥‥‥‥‥」
「確かに‥‥あるわね‥あそこだけキレイに平らだわ。大きな箱の‥・上の部分に見える」委員長が言った。
「まかせろ!」木村がライトを俺に渡し、放り出していたシャベルを拾って戻って来た。照らしといてくれよと言い置いて、一歩一歩落ちないように足場を作りながら、穴の底まで下りて行く。
委員長が指摘した平らなところにたどり着くと、その周りにシャベルを立て、大きな体に物を言わせて物凄い勢いで掘り始めた。その動きはまるで、時間短縮のために早送りしている映像の様だった。
「木村くん、すごーい!」高橋と山本が揃って声を上げた。

あっという間だった。巨大な箱の、恐らくはまだその一部分‥が姿を現した。
「こりゃあ‥箱じゃあないぜ。何かの建物だ」ハンパない運動量の作業をしていながら、汗一滴たらさず息ひとつ切らせないで木村が言った。
「‥‥‥確かに、そうみたいね‥‥どこかで見たような‥‥‥‥‥」
首をかしげて考え込む委員会の隣、それまで傍観者に徹していたかおりが、指をさしながら口を開いた。
「もしかして‥‥‥‥あれじゃない?」
かおりの指さしていたのは、グラウンドの向こうにそびえている校舎‥そのエントランスの張り出した一階部分だった。
「あ‼」岡目八目のかおりの一言に、かおり以外の全員がぽっかりと口を開けた。

暫く‥・沈黙の時間が流れた。みんなが顔を見合わせていた。
その沈黙を破ったのは俺だった。
「もしかしてこれって‥‥‥‥グラウンドの下に校舎がもう一つ‥‥丸々埋まってるってことなのか?」

次回へ続く