ぼくらのウルトラ冒険少年画報 (11)

別冊付録 「T君が見た闇」
私の生まれ育った町にはお寺と墓地が二つずつあり、それぞれ生活する地域によって檀家が分かれていました。
墓地は山の斜面にまるで段々畑のように作られていて、無造作に拡げられていった結果からか通路や石段がやたらと入り組んでいて、どうやったら目的のお墓にたどり着けるのだろう・・という場所もありました。
その様子はまるで「迷路」で、子供がこういう場所を遊び場にしないわけがありません。
私や同級生のT君も例外ではなく、お墓を意味もなく歩き回ったり時には鬼ごっこなどもした覚えがあります。

T君は私より墓地に近い地区に住んでいて、お墓に頻繁に出入りする機会があったようです。
その日もT君は墓地を散策するがごとく歩いていました。
お墓と通路の境界がはっきりしない場所もたくさんあったので、おそらくはお墓の中を横切ったのでしょう。

ズボリ!!

T君の足が土にささりました。それも太ももまで。

突然の出来事に焦ったT君でしたが、我に返り体制を立て直して慌てて土から足を抜きました。
足がささった場所を見るとぽっかりと穴が開いています。
その近辺の土が他の場所よりも盛り上がっているのに気づいたT君は全てを理解しました。
自分はとんでもない事をしてしまったと。

私の子供の頃はまだ土葬が行われていて、お墓には棺ごと遺体が埋葬されていました。新しく埋葬されたお墓はすぐに分かります。土がこんもりと盛り上がっているのです。これは棺や遺体が朽ちていく際に土が落ち空間を塞いでいくので、あらかじめ土を盛っておくのです。

T君は穴を見つめます。
まるであの世に通じているかのごとき小さな暗闇・・・・・

焦ったT君は慌てて穴を埋め戻そうと土をかき集め、穴に流し込み始めました。しかし流し込んでも流し込んでもいっこうに穴は埋まりそうにもありません。
T君は怖くなり、穴をそのままに逃げるように家に帰りました。

その夜、T君は熱を出し寝込んでしまいました。

ぼくらのウルトラ冒険少年画報 (10)

第二話「長いトンネル」 後編
歯の治療を終えての帰路、私は連絡バスで再びトンネルを抜けようとしていました。

トンネルの壁に突然現れた「顔」を目にした衝撃はその日一日中私の頭の中を占領し続けました。
例によって「安心」を手に入れる方法はただ一つ、帰りにその場所を観察して「顔」に見えたものが何だったのかをしっかりと確かめる事でした。
・・・しかし私はそれをしません。できなかったのです。再度それを見てしまうともっと嫌な何かを背負いこんでしまいそうな気がしたからです。
バスがトンネル内に侵入すると私は目を伏せ窓の外を見ないようにしていました。
いつもより長い通過時間。いつもより長いトンネル。

バスがやっとの思いでトンネルを出ました。しかし私の「安心」はバスのバックミラーに映るトンネルの出口とともにどんどんと遠ざかっていったのでした。

テレビドラマの結末や謎解きを見逃した如くのその代償はしばらくして私を後悔させ始めます。
正体不明のまま捨て置く時間が長ければ長いほど、不安や謎の事象達は培養液の中でみるみる繁殖していく細菌のようにそのイメージを変形、増幅させていったのです。
「吊り上がった目とむき出しの歯を持った顔」と私の心の中に既にあった「闇」とが、新しい分子式を構成するように結合し、私には想像もつかない悪夢をもたらしました。
例えばそれは「防空壕」に潜んでいるかもしれない謎の人物に「顔」を提供します。
彼は洞穴の暗闇の中からひょいと顔だけを現し、吊り上がった目をさらに吊り上げ、歯をことさらむき出しにして笑うのです。
高らかに笑い声をあげるのです。

私は夢の中、その笑い声を遮る術を持たないただの小学三年生でした。

次回は「別冊付録」です。お楽しみに。