我為すことことごとくこれ蛇足也 其の参

『悪夢十夜第四夜 遠足』が未だ完結せず、随分と長編になってしまっている問題

今回は、先週で五十九回目を数えても尚完結していない『遠足』について、何故にそうなってしまったのか、反省の意味を込めつつ少し書いてみたいと思います。
『第二夜 仮面』は二十九回、『第三夜 流星群の夜』は追記した新しいエンディングを含めて二十七回、今までで最長であった『第一夜 タイムカプセルの夜』にしても、もう一つのエンディングを含めても四十一回でした。
果たして‥『第四夜 遠足』は、どうしてここまで長くなり、未だ完結していないのか?

おそらくですが一番の原因は、私の頭の中にあるお話を表現しようとする時、絵(漫画)で表現していくのと、文字(文章)で表現していくのとでは、勝手が違うからだと考えます。
漫画は省略です。漫画は、一枚一枚の絵の表現に盛り込まれた情報で、かなりのものを読み手に伝えることが可能な、つまりは、「こことここが上手く表現できて、肝心なコマの絵がしっかり描けていれば」概(おおむ)ね伝わる媒体で、長くなりそうな場合、所々を省(はぶ)いてスマートにできます。ページ数がいつも限られているので、ネーム(漫画の設計図)を描く段階でのこの省いていく作業は、必要不可欠なのです。
一方、文章の場合はと言うと、自分が不慣れなせいもあって、『省いていく作業』が中々できないでいます。提示していく情報として、「今回はこの辺りまで描いてみよう、進行させよう」と考えて書き始めるのですが、いつもその半分程しか達成できないでその回を終わるのがほとんどです。更には、ページ数などの束縛がないせいか、後で閃(ひらめ)いて盛り込んでみたくなったことやディテールを付け加えたくなってしまい、文字数がどんどん増えていくわけです。例えば、キャラクターなどは描いているうちに愛着が湧いてきて、予定以上に動かしたくなってしまうのです。
もっとも、お話を最後まで全て描き終えてから何度も推敲(すいこう)し、納得したものをアップデートしていけば、上に書いた様なことにはならないのでしょうが、そうしたらまるで仕事になってしまい、時間のやり繰りができなくなってしまいます。

書いてきたことは所詮言い訳に過ぎませんが、このお話に長々と付き合っていただいている皆さんには本当に感謝しております。このお話ももう終盤にさしかかっています。あと何話になるかは明言できませんが、必ず終わらせます。
どうかあたたかい目で見守っていただければ、嬉しいです。

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (174)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その五十九

何という事だろうか!
予想していたパトカーだけではなく、すでに『送迎のバス』まで到着していたのだ!

否!違うか! パトカーも送迎バスも決して到着してはいない。芝生広場の駐車場へ向かう途中で、ことごとくその到着を阻止されたのだ。つまり『ハルサキ山』に近づく者は、容赦ない『ヒトデナシ』の手に掛かり、腹を裂かれて吊るされる運命にあるのだ。きっとこの先、近づこうとする者の全ても‥‥‥‥‥

ぼくは、構えていた双眼鏡を下ろした。全身に鳥肌が立っている。
「なにか‥良くないものが‥‥見えたのね」そんなぼくの様子をすぐ横で窺っていた高木セナが、悲しそうな声で話しかけてきた。
ぼくは、黙って高木セナに双眼鏡を差し出した。そして、舗装道路を見てみるよう促した。
彼女は双眼鏡を受け取ると不器用にそれを構え、やはり黙ったまま、時間をかけて何とかピントを合わせ、道路上に放置されているパトカーとバスを確認した。
「どうしてあんなところで止まっているの? 事故?」
「いや‥‥」ぼくは残酷な言葉を彼女に告げることを自覚した。「運転してた人たちは‥みんな殺されたんだ」
「殺さ!れた??」驚いた高木セナが危うく、構えていた双眼鏡を落としそうになった。ぼくはそれを何とか受け止め、そして続けた。「おそらく、芝生広場を襲ったのと同じ犯人の仕業だ。ヤツはこの先も、芝生広場に近づこうとする人間を全員、殺すつもりでいるのかも知れない‥‥‥」

ぼくは、驚愕(きょうがく)の表情が張り付いたままの高木セナに、その犯人が、この辺りで長い間噂されている『ヒトデナシと呼ばれる謎の存在』である可能性があると言う事を説明した。
「そっ、その『ヒトデナシ』は、悪魔か何か?それとも、人間のすることを許せない神さま?」
「な?なんだよ、それ?」
「おばあちゃんに、『たたり』て聞いたことあるもの。入っちゃいけない場所に入ったり、壊しちゃいけないものを壊したりする人間がいると、たたりがあるんだって。神さまが怒って、その人間たちに罰をあたえるんだって」
「なるほど‥。祟(たた)り、祟り神か‥‥」ぼくはこんな時でも、高木セナが大人になって尚も持ち続けている独特の思考回路に、感心させられてしまった。「そんなこと‥考えもしなかったな」

「ねえ、ヒカリくん!この先、私たちはどうなるの?このまま、ここにいていいの?」全く的確な問いかけだった。
「見た通り、警察の助けや、予定の時間より早くなったバスの迎えは、『ヒトデナシ』に阻止されたみたいだ。君の言う通り、ここに留まってて良いわけないけど、葉子先生やタスクの‥動けない者がいる。救急車だけでも来てほしかったのに、期待しない方がいいな。通報に失敗したか、もしかしたらやっぱり既(すで)に来ていて、舗装道路のどこかで、もうどうにかなっているのかも知れない‥‥‥‥」
今置かれている自分達の状況を、言葉にして整理してみると、まるで『陸の孤島』にでも閉じ込められた気持ちになった。そしてその『島』には、『祟り神』のごとく容赦なく人間の命を奪っていく謎の『ヒトデナシ』が潜んでいるのだ。

次回へ続く