我為すことことごとくこれ蛇足也

今回は予定を変更して、今の時期しか体験できないであろう些細(ささい)な事を、勿体(もったい)ぶって書いてみたいと思います。
題して『夏の終わりのハーモニー』です。

暦の上ではとうに秋で、日の入りも随分と早くなってきました。
夜の帳(とばり)が下りる頃、西の空を見上げると(見上げるほど高い位置でもありませんが‥)夏の星座の代表である『さそり座』が輝いており、ゆっくりと西の地平に沈み行(ゆ)こうとしています。
この星座の中央で赤い光を放つ赤色超巨星『アンタレス』は直径が太陽の680倍あるとされていて、さそり座のシンボル的な存在です。

そうしてしばらく‥‥・時を待ち、‥‥日が変わり、さらに時を経て空が僅かに白み始めて闇が退いて行く少し前、東の空に輝くのは冬の星座の代表『オリオン座』です。
鼓(つづみ)の形が特徴のこの星座は、『ベテルギウス』という1等星(やはり赤色超巨星)を持ち、この星は、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンと共に『冬の大三角』を形成します。

この二つの星座は、同じ夜空に輝く事は決してありません。
ギリシャ神話では、オリオンは優秀な猟師でしたが、この世界に自分が倒せない獲物はないと驕(おご)ったため、神の放ったさそりに刺し殺されました。
共に天に上げられ星座となった後、東の空から『さそり座』が姿を現す前、まるでそれから逃げ、隠れるみたいに『オリオン座』は西の空の下へと沈んでいきます。また、さそり座が西に沈むと、安心した様子で東からオリオン座が上ってくるのです。

夏と冬の代表的な二つの星座の物語に‥一晩かけて思いを馳(は)せる‥‥‥。今はそんな贅沢ができる季節の変わり目の、特別な夜空なのです。