悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (34)

第一夜〇タイムカプセルの夜 その十九

委員長による検証は続いていた。

「この教室まで辿り着けたのは、あなたの判断が正しかったからね。地下へ通じる階段を見つけることができた。その時のあなたの言葉が印象的だったんだけど‥‥覚えてる?」
「‥‥‥‥何か‥言ったっけか‥」俺は思い出せなかった。
真っすぐ俺を見ていた委員長の目の焦点が、俺の後方へ通り抜けていく感じに見えた。委員長が思い出していたのだ。
「ここが‥‥何かを隠したり‥封じ込めるために埋められた場所ならば‥‥‥‥‥、肝心なものは‥‥俺ならもっと深い所へ‥埋めるだろう‥‥」
俺は黙って聞いていた。委員長の目の焦点が、俺の顔に戻って来た。
「‥違うかしら?」
「いいや‥‥たぶんそんなことを言った気がする」
「この教室のこと、そもそもこの校舎が埋められてたことにあなたが関わっているのは間違いなさそうに思うけど‥‥それは認める?」
俺は、ゆっくりと頷いた。その反応に納得したように、委員長も頷いて見せた。
「私が気になったのは、あなたが、何かを隠したり封じ込めるため‥と言ったこと。タイムカプセルなら、長い時間が経った後で掘り返すことを前提としてるから、隠す‥とか、封じ込める‥とは表現しないはずよ」
委員長の指摘は、なるほど‥と相槌を打ちたくなるくらいに俺を感心させた。
「あなたは‥‥この校舎と一緒に、いいえこの校舎ごと地中に埋めることによって、何かを葬り去ろうとした。その行為は、校舎を埋めた自覚や記憶すらも道連れにするほど徹底したものだった‥‥‥‥」委員長はそこまで言い終えると俺を見つめ、俺自身に台詞(せりふ)の続きを促すように、軽くあごを上げた。

「‥‥だから、何も憶えていない‥‥‥‥と」俺は、言った。
委員長は、返事の代わりに今度はあごを引き、微妙に口角を上げた。

「確かにそう考えると‥‥説明がつきそうだ。でも結局俺は、何も憶えていないんだぜ‥‥‥‥‥」
「だったら‥どうかしら、この校舎に入ってから何か思い出したことはない?たとえば、急に付きまとってきたイメージとか‥‥‥」
それは‥・あった。俺自身が校舎を埋めたかもしれないと考え出したのも、そのひとつかも知れない。そして‥‥‥‥‥‥
「ねえ、ずっと気になっていることがあるんだけど‥‥聞いていい?」
「‥ああ」
「ここへ来る途中の廊下で、あなた、壁に貼ってあった書道の作品を一枚はがして、ポケットにしまったわよね。あれはどうして?」
「あっ‥」俺は慌てた。委員長には気づかれてないと思っていたが、見られていたのだ。慌てて繕う。「あれは‥‥‥書いてた内容にあまりにも腹が立ったんで‥つい‥‥‥‥」
「何て書いてあったの?」
「えーと、何だっけか?‥‥」
委員長は俺のズボンのポケットを指差し、見せろと言うようにその手を広げた。
まずい事になった。全身から汗が噴き出した。俺はとりあえずポケットに手を突っ込んでみたものの、そのまま取り出せずに固まってしまった。

と‥その時である。教室の真ん中辺りでボタリと音がした。
委員長と俺は振り向いた。

見ると、席に座っていた人形の一つが背中の部分で折れ曲がり、突っ伏す形で机の上に頭が着いてしまっていた。
「あら、可哀そう‥‥・いったい誰の人形かしら?」委員長が言った。
俺にはその人形が誰なのか、すぐに分かった。
それは紛れもなく、委員長を模(かたど)った人形だった。

次回へ続く

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