悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (22)

第一夜〇タイムカプセルの夜 その七
委員長は‥‥真っすぐに伸びている廊下へと‥・俺の手を引いてゆっくりと歩き始めた‥‥‥‥。

不意打ちの様な委員長の行動に、得体の知れないこの「もう一つの校舎」に閉じ込められたことへの動揺はすっかり消し飛んでいた。
俺は、激しい胸の高鳴りを抑えられないでいる。繋がれている手からそれが伝わって、これまで秘めて来た感情を彼女に知られてしまうんじゃないかと思った。

俺はずっと‥‥‥そして今でも‥‥委員長のことが好きだったのだ‥‥‥‥‥

俺が、委員長と初めて同じクラスになったのは、五年生の時だった。
俺の小学校では二学年ごとにクラス分けがあって、五年生から六年の卒業まで彼女は俺のクラスメイトであり、文字通り「委員長」だった。
彼女は利発で成績も良く、どの先生からも一目置かれる存在だった。
整った顔立ちと長い髪、いつも背筋がピンと伸びた感じで立ち振舞い、どこか育ちの良さを漂わせていた。それでいてお高くとまった印象は与えず、程良い距離を保ちつつ色んな子の面倒を見る。恐らくクラスのみんなは彼女が、「ちょっとだけ年上のお姉さん」であるかの様な錯覚に陥って、慕っていたのではないだろうか。
無論、パワーバランスとして彼女を良く思わない者もいるにはいたが、委員長の印象的な個性のひとつ、誰にでも分け隔てなく「真っすぐ相手を見て」誠実に接するという行為は、彼らを沈黙させるに十分な美徳であった。

俺は、委員長と同じクラスになった五年生の新学期から、すでに彼女を意識するようになっていた。
相手は女子だし、話しかける勇気などあるはずもない。ただ、委員長のいるところでは彼女の視線を絶えず意識していて、男子の仲間と喋ったりふざけ合ったりする時も、大げさに、やや大きめの声を出して、彼女がこちらを見やしないかとチラチラと目の端で窺(うかが)ったりしていた。何かのきっかけを作ることで彼女の方から接近してくるのを期待していたのだろう。
要するに、委員長の気を引きたかった訳だが、その頃はまだ、自分の中に芽生えていた感情がいったい何であるのかなんて考えもせず、馬鹿げた毎日をまったく省(かえり)みることのない愚かな少年だったのだ。

そして、やがて起こる‥・そんな愚かな少年だった俺を更なる愚行に駆り立てることになる‥ある些細な出来事‥‥‥‥
その出来事が、後の小学校生活での俺と委員長のふたりの立ち位置を決定づけてしまうのだ‥‥‥‥‥。

次回へ続く

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