アメリカからやって来た冒険と大冒険 追記

前回の「マグーの大冒険」に関連して‥と言うより自分のこだわりでしょうか、書いておきたかった事があったので宜しかったらお付き合いください。

アメリカの映画俳優「トム・ハンクス」は皆さんもよくご存知だと思います。
コメディアンとして、難しい役どころを見事にこなす演技派として確固たる評価を得ていて、近年は製作や監督としても活躍中の彼です。「トイ・ストーリー」は日本語吹き替え版が馴染みの我々ですが、原版のウッディの声は彼がやっています。

私がトム・ハンクスを最初に目にしたのは、ラブストーリー映画の中メグ・ライアンのお相手としての彼でしょうか。
その後「フォレスト・ガンプ」が大ヒットし、遡って以前の作品も観るきっかけを得るわけですが、この作品が私にとって彼への認識がしっかりと定まる決定打だった気がします。
決して熱烈なファンではありませんでしたが、スクリーンの中での彼の存在感は大きくかつ揺るぎなく、以降映画館に足を運んだどの作品も満足のいくものでした。

彼は仕事が途切れる事がありません。大作、話題作、問題作、実に多種多様な役柄をこなしていきます。
「アポロ13」では危機的状況に陥った宇宙飛行士のひとりを、「プライベート・ライアン」では特命をうけた小隊を率いる大尉を、「グリーンマイル」では刑務官、「キャスト・アウェイ」では貨物輸送機の墜落で奇跡的に生き残り無人島でのサバイバルを余儀なくされる男、「ターミナル」では母国のクーデターでパスポートが無効になり空港ターミナルから出られなくなった男を、「キャプテン・フィリップス」ではソマリア海賊にシージャックされたコンテナ船の船長を、「ハドソン川の奇跡」ではエンジントラブルでハドソン川に機体を不時着させ乗員乗客を救ったにもかかわらず運輸安全委員会から厳しく追及される機長を演じます。
他にもマフィアの殺し屋、宗教象徴学専門家の大学教授、弁護士、新聞編集者などなど‥‥

いつの頃からか私は、彼の存在を「マグー」と重ね合わせるようになっていました。
トム・ハンクスの一連の仕事が、前回紹介した「マグーの大冒険」で様々な物語の中の人物となって活躍するマグーの在りようと似ていたからです。

「トム・ハンクスの大冒険」。彼の作品群をそう呼ぶこととしましょうか‥‥。

アメリカからやって来た冒険と大冒険 後編

私が小学生だった頃の忘れがたきアメリカ産アニメ、次に紹介するのは
「マグーの大冒険」です。

原題が「The Famous Adventures of Mr.Magoo」
どうやら以前から「Mr.マグー」という、頭の禿げあがった道化が似合いそうな三枚目のキャラクターがいて、その派生のひとつがこの作品の様です。
「マグーの大冒険」は、Mr.マグーが様々な物語の中のいちキャラクターに扮し活躍するというもので、たとえば「ドン・キホーテ」では従者サンチョ・パンサを、「白雪姫」では七人の小人(全員)を大真面目でやります。
以下、その他のエピソードのラインナップです。
「宝島」
「白鯨」
「ウイリアムテル」
「ロビンフッド」
「巌窟王」
「三銃士」
「アーサー王」
「リップ・ヴァン・ウィンクル」
「ポール・リビア」
「ガンガディン」
「真夏の夜の夢」
「ノアの箱舟」
「フランケンシュタイン」
「シャーロックホームズ」
「ディックトレーシー」
エピソードによっては一回で終わらず、何回にも亘るものもありました。

毎週軽快な音楽にのせて始まり、小学校の図書室に並んでいる様な欧米の有名な物語がアニメになって登場するわけですから、興味津々です。今にして思えばその後外国の文学に接していく時の道しるべとなっていた気もします。

特別印象に残っているエピソードをいくつか‥
アメリカ版の浦島太郎「リップ・ヴァン・ウィンクル」はこの時初めて知りました。
ウィンクルが森の奥深くに迷い込み、見知らぬ老人に誘われ酒盛りを始めますが、近くの広場で数人がボーリングの様な玉転がしの遊びに興じている風景は何とも奇妙でした。
「ポール・リビア」は、アメリカの歴史を詳しく学ばない限りなかなか知りえないお話で、ポール・ルビア自身は愛国者として知られていてアメリカ独立戦争中イギリス軍の監視をしていた人物。「レキシントン・コンコードの戦い」で、イギリス軍が陸路で来るか海路で来るかを知らせる合図に、鐘楼の様な塔にカンテラだったかランタンだったかを吊るすシーンが印象に残っています。
そして私が最も秀逸だと思ったエピソードは「白鯨」です。おそらくマグーが扮していたのは、モビーディックとの壮絶な闘いで船は沈みたった一人生き残るイシュメイルだと思われます。終始物語を漂う陰うつなムードが良く表現されていて、片足を失い復讐に燃えるエイハヴ船長、自らが入る棺桶を携えている船員の一人であるインディアンの不吉な占いとその言葉が結末の悲劇を予感させます。ラストシーン、大海原にポツンとたった一つ浮かんだ棺桶と流れる語りが、何とも言い難い余韻を残しました。
後にも先にも私にとって「白鯨」は、このアニメがすべてだったかもしれません‥‥

次回は、「マグーの大冒険」に関連して映画の話をしてみたいと思います。