帰ってきたぼくらのウルトラ冒険少年画報 (8)

映画「シン・ウルトラマン」を観ました。

遅ればせながらやっとこさ、映画「シン・ウルトラマン」を観ました。
今回はお約束通り、その感想を書いてみたいと思います。

正直言って楽しかったです。楽しませていただきました。
架空の出来事を徹底して現実的に描いてみせた「シン・ゴジラ」と違い、「シン・ウルトラマン」では外星人(つまりウルトラマン)が登場して禍威獣(かいじゅう)と戦ったり、別の外星人(ザラブやメフィラス)が日本政府と接触して交渉したりする、そんな現実離れした世界のお話なのです。現実ぽさは貫かれていますが、要するにエンターテインメント性豊かな、「愛」がテーマの作品だったのです。だから肩の力を抜いて、ニヤニヤしながら存分に楽しませていただきました。

ストーリーは、テンポ良くスピーディーに展開して行きます。まるで聴き惚れてしまう落語みたいな軽妙な語り口です。次から次へと繰り広げられるエピソードには、かつての「ウルトラマン」のエキスがありとあらゆる逸話なども含めてギュギュッと濃縮されていて、練られた脚本の妙に敬服しました。
映像も素晴らしかったです。「こんなシーンが見たかった」と思う様な「絵」が随所にあって、その中でも一番印象深かったのは、地球に降り立ったばかりのウルトラマンが初めてスペシウム光線を発射するシーンです。その一連の描写は、今まで数限りなく光線発射シーンを観て来た私にもまったく新鮮に映り、秀逸な演出だったと思います。

かつて、多感な少年期に最初の「ウルトラマン」と出会い(出会ってしまい)、夢中になって同じ時を過ごして来た方々が今回作り手となって、「シン・ウルトラマン」を届けてくれたわけですが、そんな老年期を迎えつつある私達に、良い「冥途の土産」が出来ました。
「シン・ゴジラ」を観て共に熱く語った同年代の友人達はすでにこの世に存在しませんが、この映画を観た感想を是非とも聞きたかったです。

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (150)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その三十五

当時のお年寄りたちがなぜ、ここハルサキ山を『腹裂き山』と呼んでいたのか‥‥‥‥‥

力のない静かな声で葉子先生は話しを続け、ぼくたちは固唾(かたず)を吞んでその話に耳を傾けていた。


「それは、もっとずっと以前の‥‥教頭先生はまだこの世に生まれていないし、お年寄りたちですらみんな幼なかった頃の、おそらく『明治』と呼ばれていた時代に起きた出来事が原因らしくて‥‥、彼らがその出来事を忘れられずにいつまでも記憶に留めていたせいだと‥‥教頭先生はおっしゃっていたわ。
ハルサキ山には四十人足らずの小さな集落があって、その住人がひと晩の内に一人残らず、老いも若きも幼子(おさなご)も、全員が全員、腹部を切り裂かれて死んでいたそうよ」
決して聞き流せるほどの他愛もない話でないことは覚悟していたが、ぼくはあまりの内容に顔をしかめ、隣にいて思わずのけ反ったモリオと二人顔を見合わせていた。ツジウラ ソノも、ミドリもフタハも、凍りついたみたいに固まってしまった。
「事件よね。大変な事件。今だったら大騒ぎになって、すごい報道になっていたでしょう。警察は大掛かりな捜査をして、そんな酷いことをした犯人と、そんな酷いことをした理由を、必ず突き止めようとしたでしょう」
「‥そう‥‥しなかったんですか?」ミドリが擦(かす)れ気味の声で質問した。
「教頭先生がお年寄りたちから聞かされた話では、出来たばかりの当時の警察が動くには動いたらしいけど、時代が変わったばかりの世の中はまだまだきちんとしてなくて、争いやら反目やらのいろんなことがあったし、訳の分からない迷信も根強く残っていて、人をしり込みさせて有耶無耶(うやむや)の内に置き去りにされる事案もあったんですって‥‥」
「だったらその事件、解決しなかったんですか?」葉子先生の一番近くにいるフタハが問うた。
「みたいね‥‥。事件はまったくの未解決で、犯人も捕まらなかったらしい。だからこそ余計、近隣の人たちの間では様々なことが取り沙汰(とりざた)されて、『腹を裂かれた全部の死体からは肝(きも)が抜かれていて、恐らく肝を取るためだけの為に全員が殺されたのだ。犯行は血も涙もないヒトデナシの仕業(しわざ)に違いない』などと言う噂がまことしやかに流れ、ハルサキ山は『腹裂き山』と陰で呼ばれるようになっていた。きっとそれが語り継がれていって、幼かった教頭先生の耳にも届いたわけね。教頭先生は、幼い頃に自分を心底怯えさせた『腹裂き山のヒトデナシ』の噂が、大きくなっても忘れられずにいて、大学に進んだ頃には地元の歴史が記されている文献をあちこち当たって、詳しい事件の記述がないか探し回ったらしい。でも結局、発見できなかった。詳しい記述どころか、その事件に該当する一切の記録が‥‥‥‥」

聞いていた全員が沈黙した。子供相手にかみ砕いた表現を選択する余裕が今の葉子先生にはなかったのかもしれない、ぼくはともかく、他の子供達には彼女の語る言葉は少々難しかったはずだが、彼らは精一杯集中することでそれをカバーし、理解していた。それぞれが物思いに沈んでいたのだ。

「だったら、だったら‥‥事件が全部デタラメだった可能性だって、あるわけだ‥」モリオが沈黙を破る様に指摘した。

「‥‥そうね‥」少し間を置いてから、葉子先生は答えた。
「そうだと‥良かったんだけど‥‥‥‥‥‥‥」

次回へ続く