第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百五十四
「 ふぅうゥゥぅ‥ 食った! 全部食ったぞぉ!! これでもう思い残すことはないぜ! 」
少し離れた場所に座り込み、残しておいた大好物のチョコを独り黙々と食べていたモリオが突然、深いため息とともに大声を上げた。
高木セナの両腕をリュックに仕舞っている時に感じた『違和感のようなもの』。その正体が何なのか答えを探し求めていたぼくは、聞こえてきたモリオの大声に思考を途中で遮(さえぎ)られ、反射的に彼の方を振り向いていた‥‥‥‥
「 モリオ‥ もう思い残すことはないなんて、随分と大げさな口振りだなあ‥ 」
「 ふん、後からのこのこやって来たおまえに何が分かる? ここにいたらみんながみんな、片っ端から壊れちまうんだよ 」
「 壊れちまう?‥‥ 」
ぼくは、モリオの言葉に、ほどなく対峙(たいじ)することになるであろう‥ハラサキ山の魔物『ヒトデナシ』の存在を強く意識した。
「 モリオ、聞いてくれ。ぼくは、君を含めてここに集められたみんなを、ここから連れ出そうと思ってやって来た。助けたいんだ。だから、協力してくれないか? 」
ぼくは、行方知れずになったセナのことにひとまず目を瞑(つぶ)る決断をし、まずはモリオから、できるだけたくさんの役に立ちそうな情報を得ようと考えた。急がば回れだ。
モリオは、上目使いで怪しむ様にしばらくぼくの顔を窺(うかが)っていたが、「 ふん‥ 」と言って目を逸らした。
「 遅いよ。手遅れだ。今更、誰も助けられやしないさ。まともでいられてるのはたぶんもう‥このオレくらいのものだからな‥‥‥ 」
モリオの消え入りそうなそんな返答は、ぼくを黙り込ませた。
「 だったらモリオ‥‥ 参考の為に、せめて今いるこの場所が、『どんな場所』なのか教えてくれないか? 」
打つ手の見つからぬ雰囲気の沈黙の中をしばらく彷徨(さまよ)った後、ぼくは結局重い口を開き、彼に問いかけていた。
「 四方(しほう)目の届く範囲には、人も物も仕切りも、何も見当たらない気がするんだが‥‥‥‥ 」
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 」
モリオの口も、明らかに重そうだった。が、数分後‥‥ 思い出したみたいに突然口を開き、こう言った。
「 オレもこの廃墟へ来てから‥‥ あっちこっちをうろうろしてただけの人間だから、そのつもりで聞いておけ。 ‥‥たぶん、今オレたちがいるのは、廃墟全体のちょうど真ん中辺(あた)りの場所なんだと‥‥思う。 最初から何もなくて、誰も寄りつこうとしない、実を言うと初めて足を踏み入れた時から、何だか気味の悪い空間だなあと‥‥ 思ってた 」
次回へ続く