悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (292)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百七十七

「 何かの‥ 冗談なん‥だろ??‥‥‥‥ 」
ヤツの言う『大量殺戮(さつりく)』が、ぼく自身の描いたシナリオによるものだということを、ぼくは到底(とうてい)信じられなかった。
だが‥、心のそこかしこに蟠(わだかま)っている闇の中で、まるで鬼火のような炎がずっとくすぶり続けていて、今も怪しく明滅(めいめつ)を繰り返しているのを感じ取っていた‥‥‥‥

「 だったらおまえに質問するが、どうしておまえは『ハルサキ山』にいる? 」 ずっとぼくの目を覗き込んでいたヤツが、いきなりそう切り出した。
「 どうして? 」
「 そうだ。 どうしておまえは、わざわざ『ヒトデナシ』の伝承がある『ハルサキ山』へ、こうやって小学生の姿をして『遠足』にやって来たんだい? 」
「 そっ それは‥‥ 」
「 さらに言うなら、なぜ『ハルサキ山』には『巨大迷路廃墟』が、今もこうして取り壊されもしないで残されている? 」
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 」

ぼくは言葉に窮(きゅう)していた。答えるのは容易(たやす)いように思えたが、それらを一つ一つ説明しようとすると、言葉が出てこなかった。

「 何なら、おまえの代わりにオレが答えてやろう。 今のおまえ、今の壊れかけの精神を抱(かか)えたおまえの内(うち)には、『どうにか処理しなければならない二つの強い気持ち』が、絡み合った形で同時に渦を巻いているんだ 」
「 二つの? 強い気持ちだと?! 」
「 そうだ! 一つ目は、失ってしまった愛娘(まなむすめ)に対する、永遠に取り返しのつくことがない『後悔』。そして二つ目は、現代医療に裏切られたという思い込みに根ざした人間社会への失望と不信感、自分が永遠に失ってしまったものを享受(きょうじゅ)できる者達への妬(ねた)みの感情に培(つちか)われた、まったくもって自己中心的な、誰彼(だけかれ)構(かま)わずその矛先(ほこさき)が向けられた『復讐心』だ! 」

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (291)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百七十六

「 クックッッ いったい何のこと‥だって? 」 ヤツが苦笑いしながら言った。
しかし、ぼくが口に出した言葉に嘘はなかった。

「 それが演技でないんだから、まったくおまえは呆(あき)れた野郎だよ‥ だったらしょうがない。これから始める『弔(とむら)い』は、一々(いちいち)おまえの顔色を窺(うかが)うことなく進行させてもらう。いいな? 」
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 」 ぼくは返事をしなかった。だが心の中で、ぼくがどう返答しようが、どうせおまえはやるんだろう?‥と、思っていた。
「 ああ、まったくその通りだよ 」 すぐさまヤツが言った。

「 ‥もしかして、『極めて特別な棺(ひつぎ)』と言うのは‥ 」 ぼくに愛想(あいそ)をつかしたヤツが、早速(さっそく)何かに取り掛かろうとぼくに背を向けた時、ぼくはボソリと呟いてみた。ヤツが振り向き、ふたたびぼくの方に目をくれる‥‥
「 その棺と言うのは‥、巨大迷路廃墟のことか?‥‥ 」

「 ほう‥ ちゃんと、気づいていたみたいだな。まったく、その通りだよ 」 ヤツが真顔(まがお)になってぼくを見つめた。
「 迷路内の通路の壁を埋め尽くしていた無数の『赤い血のスタンプ』は‥、やはり『ばらの花』の代わりだったのか? 」
「 ああ。それが『おまえと娘との約束』だったんだろう? おまえの描いたシナリオの中でも、おまえが拘(こだわ)った重要な部分だ 」
「 だったら!‥ 巨大迷路廃墟の外壁に、次から次へと『腹を切り裂いて内臓を晒(さら)し、逆さまに吊るしていった死体』は、いったい何の意味がある? ソラとの約束で、棺となるものに、あんな馬鹿げたものを望んだ覚えはないぞ! もしかしたら『ハラサキ山の魔物 ヒトデナシ 』の存在を誇示する為の勝手な暴走か?? 」
「 ふむ‥‥ 」 そう言って、葉子先生姿のヤツは不自然に男っぽく腕組みをし、黙り込んだ。そして、ぼくの目をギロリと覗き込んで、ニタッと意味深長(いみしんちょう)に笑って見せた。
「 あれも『ばらの花』のつもりだろう。それも『飛び出した血まみれの内臓で出来た大輪の赤いばら』だ。おまえは全部を見てないから知らないだろうが、今の巨大迷路廃墟の外壁はとうとうぐるりと一周、『大輪の赤いばら』で埋め尽くされたよ。まさしく壮観だぜ! そんでもって言わばこの『大量殺戮(さつりく)』も、間違いなくおまえのシナリオにしっかり描かれていたことなんだぜ!!

次回へ続く