悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (294)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百七十九

ふん‥ 『妄想世界』の行先が、つまりこの『ハルサキ山』か‥‥ 上手(うま)いことを言う‥‥‥
ぼくは正直に、ヤツに感心していた。

「 ふん、感心するのはこっちだよ。なぜならおまえは、『ハルサキ山』にセットで揃(そろ)っている『ヒトデナシ伝承』と『巨大迷路廃墟』を利用することによって‥‥、『一生引きずり続けて行くつもりでいた娘への後悔』と『憤懣遣る方無い(ふんまんやるかたない)状態でただ膨(ふく)らみ続けていく復讐心』のその両方を、いっぺんになんとかしてしまおうと目論(もくろ)んだんだからな‥‥ 」
「 なるほど‥なあ‥‥ 」 ぼくはますますヤツに感心した。
「 ふん! まったく呆(あき)れた男だぜ。この世界を自分自身で拵(こしら)えておいて、その上で何も知らない振りを貫(つらぬ)きながら自分をゆるゆると彷徨(さまよ)わせ、とうとうここまで来ちまいやがった‥‥‥ 」

「 やっと‥ 自覚出来てきた‥気がするんだ 」 ぼくは、自分を納得させるみたいに一つ小さく頷(うなず)いて見せた。 「 しかし、ぼくの『復讐心』が、巨大迷路廃墟の外壁を吊るした死体で埋め尽くす様な『大量殺戮(たいりょうさつりく』の原動力に なっているとは、どうしても思えないんだ‥‥ 」

「 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 」
ぼくの口からリアルに飛び出した言葉に、ヤツは暫(しばら)くの間(あいだ)沈黙してしまった。もしかしたら、ぼくの発言に嘘がないか、ぼくの思考を直接読み取りながら吟味(ぎんみ)していたのかも知れない。

「 ふん‥ おまえはまだまだ、自覚が足りてないみたいだな。人への『一心の愛情』なんてものは、その対象を失うようなことにでもなれば、そのエネルギーごといとも容易(たやす)く、まったく異質の感情へと変化してしまうものなんだよ。最愛の娘を失ったおまえの今はどうだ? 一体どうなったのか、本当はおまえが一番よく知っているはずだよな? 」

「 そっ それは‥‥‥‥‥ 」

「 おまえの『ヒトデナシ』は‥‥ 今どこにいる? 」

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (293)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百七十八

‥そうか‥‥‥
そうだった‥ のか‥‥‥
だからぼくは‥‥‥
ここにこうしている‥ わけか‥‥‥‥

ぼくに、自覚が芽生(めば)えつつあった。
ヤツが指摘した『後悔』と『復讐心』という二つの感情は、確かにぼくの内面に今もどす黒く渦を巻くものに相違なかった。そしてぼくは、その負荷(ふか)を抱えきれなくなったからこそ‥‥ だからこそここにこうしているのだろうと‥‥・
そうさ‥この『遠足』は、春の朝の病床の窓から、リュックを背負って集合場所に向かう小学生の群れを見かけたソラが、羨(うらや)ましさを滲(にじ)ませて口にしたものだから‥‥、ついつい約束してしまったんだ。ソラが小学校に入学する前でも、ソラが元気になり次第(しだい)‥‥、ソラにまだ同級生のお友だちができていなくても、とうさんとかあさんが小学生に逆戻りしてでもソラのお友だちになって、他にもソラの知っている大人のみんなもたくさんたくさん誘って‥‥、おおぜい一緒で遠足に出かけられるからと‥‥‥‥‥

「 そうさ、つまり『後悔』と『復讐心』という二つの強い感情に支配されて壊れかけていたおまえは、その元々が亡き娘とのただの架空の口約束だった『遠足』に、『妄想という名のはけ口』を見い出したんだ 」
ここで、ぼくの思考をすっかり見透かしていたヤツが、いきなりの口を挟(はさ)んできた。
「 そうしてその『妄想世界』の行先に選んだのが、おまえが少年だった頃まで『ヒトデナシ』の伝承が実(まこと)しやかに語り継がれていて、さらには、かつての賑(にぎ)わいも過去の記憶となって、草に埋もれてただ朽ち果てるのを待っている『巨大迷路廃墟』が現存しているかも知れない‥この‥‥『ハルサキ山』と言うわけだ‥‥ 」

次回へ続く