ぼくらのウルトラ冒険少年画報 (15)

第三話「秘密基地」 その四
敵の攻撃に備えて基地全体が動き出し地下に隠れ、代わりにミサイルなどが現れ迎撃態勢に変化する。
山が割れスライドしてウルトラホーク1号が発進。水を蹴散らし滝の中からウルトラホーク3号も飛び出して1号に続く・・・
1960年代中頃から後半にかけて放送された特撮テレビドラマ「海底大戦争」や「ウルトラセブン」の1シーンです。
中でも「サンダーバード」。宇宙ステーションであるサンダーバード5号が世界各地からの救難信号を受信し、秘密基地であるトレーシー島に出動要請がきます。くつろいだ感じのリビングルームが一変、壁にかけられたトレーシー一族の普段着姿の肖像写真がすべてサンダーバードのユニフォームを着た写真に変わり、パイロットのスコットとバージルが部屋に隠された通路からサンダーバード1号、2号に乗り込んで発進していく。日常を装った島がハイテクノロジーの巨大基地に変貌する瞬間です。
この一連の出動シークエンスはどれだけ当時の子供たちの心を虜にした事でしょう。

中学生の従弟のお兄さん達と出会った私はさりげなく彼らの後をついていきました。
樹々が適当な間隔で茂った林に入っていった彼らは「ここかな?」「ここがええか」などと言いながら縄やナイフ、折り畳みのできる小さめのノコギリなどを取り出します。
「何するの?」と喉まで出かかった言葉を飲み込み、私は彼らの一部始終を驚愕の眼で見ていました。
みるみる出来上がっていくのは数本の木を柱にした鳥の巣のような宙に浮いた床、はしごが掛けられロープが吊るされ草が敷かれて、ハンモックのような布まで吊るされました。

作られていたのはまぎれもなく当時子供たちの間で「基地」と呼ばれた隠れ家的な空間だったのです。

私もそれまで自然の地形を利用した簡単な「基地」を作った覚えがありますが、ここまで本格的に手の込んだ「基地」を目にするのは初めてでした。
興奮のまま彼らを手伝う事が許され私もその「基地」の隊員の一人として認められました。
遊びを学ぶべきは親ではなく数歳年上のお兄さんたち、これは当時痛切に感じた正直な思いです。
彼らを観察することでどれだけ遊びのキャパシティーが広がっていったことでしょうか。
私はその日最高に幸せでした。

次回へ続く

ぼくらのウルトラ冒険少年画報 (14)

第三話「秘密基地」 その三
「セブンのカプセル怪獣は全部でいくつあるん?」
「さあーわからん。そやけどダンが持ってる箱の中にカプセルが四個か五個入ってたで。」
「なんや・・お前も何でも知ってるわけやないのか。」
「・・・ウルトラマンの事やったらわかるけど、セブンはようわからん。」

他愛のない会話を交わす二学期が始まったばかりのけだるい教室の休み時間。

当時、世界は冷戦の最中。「ベトナム戦争」への米軍の介入によって日本でもその報道の頻度が日増しに上がっていました。
空想科学特撮ドラマ「ウルトラマン」の後番組として放送が始まった「ウルトラセブン」のいくつかのエピソードはおそらくその影響を受けており、小学生の私には難解で深刻なものに感じることも多く、「ウルトラマン」ほど手放しで夢中になれなかったのを覚えています。
話が途切れ、話題が尽きた瞬間を私は待っていたようです。
人に聞いてもらいたくて仕方のない事が胸中にあったのです。
「基地。作ったんや。」

「えっ何それ?」
「二階建てで、はしごもついとる。緊急出動用のロープもあるぞ。」
「おおっなんかすごそうやな。」

夏休みも終わろうという最後の数日、宿題用だったのか私は同級生たちの昆虫採集につき合って野山を歩き回っていました。
町の中心は港に面した平地にありましたが、そこを取り囲むように見晴らしの良い台地が二つの岬と豊かな自然とともに広がっていて、畑や中学校、灯台や観光施設もこの場所にありました。上ったり下ったりは大変でしたが、こういう台地の起伏が景観に生命を与えるのだと今は感じます。

私は昆虫採集は苦手でした。やったことはありましたが捕まえた蝶やセミを殺せなかったのです。標本を作るには致命的な資質です。
私は捕虫網を振り回す数人と距離を取り、林に沿った道をフラフラと手持無沙汰に歩いていました。
と前から、中学生の一団が向かってきます。その中に私のいとこのお兄さんがいるではありませんか。
例によって何か面白いことが始まる予感がしました。少し年上のお兄さんたちは私の想像を超える遊び上手が揃っていたのです。

私は彼らについていく事に決めました。

次回へ続く