ぼくらのウルトラ冒険少年画報 (17)

第三話「秘密基地」 その六
夜、寝床についても頭が冴えてなかなか寝つけない時、子供の頃の私は「宇宙」について考える事がよくありました。
地球と月、太陽、太陽系の星々そして銀河・・・
宇宙の誕生やその大きさに思いをはせていくと、自分がいかに矮小で無力な存在であるかを感じ、急に気が遠くなり今横たわっている布団の感触が消え失せて、何もない広大で底なしの空間にゆっくりと落ちていくような感覚にとらわれました。

日曜日私は友人達と「基地」を探し半日かけて歩き回り、結局見つけられずに帰ってきました。
私はうそつき呼ばわりされ、その日以来U君はしばらく口をきいてくれず、Yちゃんもよそよそしい態度で接するようになりました。
二人には申し訳ないと思いましたが自分は嘘をついていません。ただただ悲しく辛い日々が続きました。

問題は「なぜたどり着けなかったのか?」です。
私は何度も自問自答しました。
場所は間違いない?
あそこで間違いない!
間違っていない・・・・・多分・・・

考えが空回りし始めると、途方もない方向に答えを求めようとしている自分がいます。
「基地」は従弟のお兄さんたちと自分だけの「秘密基地」であって、発見できなかったのは秘密を洩らした私への罰だったのだ。林の中に踏み込んだ私たちを「基地」が感知して地中深くに消え失せたのだ・・とか、基地を作った体験などもともと存在しない私の「妄想」だったのではないか・・とか・・・・・

この感覚はまるで「宇宙」について考えすぎた時のそれと似ていました。

初秋、学校から帰りむしゃくしゃしていた私は気晴らしのつもりで自転車にまたがりフラフラと出かけて行ったのです。

次回へ続く

ぼくらのウルトラ冒険少年画報 (16)

第三話「秘密基地」 その五
二学期が始まったばかりの教室。私はクラスの男子数人を前に夏休みのとっておきの体験を熱く語っていました。
「基地や。二階建てではしごもついとる。緊急脱出用のロープもあるぞ。昼寝用のハンモックも作ったんや。」
私は、従弟のお兄さんたちの発想や工夫の一つ一つをまるで自分の手柄のように言葉にしていたに違いありません。

「・・・見たいな。見てみたいなぁ。」
話が終わるころには、U君、Yちゃんの二人と次の日曜日にその基地を見せに連れていく約束をしていました。

日曜日。私を先頭に坂道を登る三人。
私は出かける前にあるものを半ズボンのポケットに忍ばせていました。それは「ウルトラマン」で科学特捜隊員が胸につけていて本部との通信に使う「流星バッジ」。もちろんそれを模したオモチャで駄菓子屋で10円で手に入れたものでした。バッジの形は同じでしたが、色が黄ミドリでテレビに登場するものとはまるで違うおそらくは無許可で作られた俗にいうバッタものだったのでしょう。しかし通信時に伸ばすアンテナのギミックがちゃんとあって、それだけでも私には十分な価値がありました。
基地についたらこのバッジをつけて「ウルトラマン」の一場面を再現してみよう・・私は昨夜、床に就く前にそう決めていたのです。

右手に畑が広がる道路を通り過ぎ、岬の先端へ続く一本道を外れてUターンするように回り込み、目指す林に私たちは入っていきました。ほどよい木漏れ日が私の頬を、U君とYちゃんの顔をなでていく瞬間、三人の期待は絶好調に達していたに違いありません。

「・・あれ?」

「どうした?」
「おかしいな・・ここで間違いないはずだけど。」
目当ての場所に基地が存在しなかったのです。私は焦りを覚え、そのあたりをしばらく歩き回りました。
「何で?・・・・・」
「どうしたんや。基地はどうした。」
少し焦れたU君が私に詰め寄ります。

基地は影も形も見当たりませんでした。狐につままれたような感覚。
私はもう少し行ったところかなぁと誤魔化し、それから小一時間ほど林の中を隈なく探索しました。例えばこの林が誰かの私有地で、その持ち主が取り壊し撤去したのかとも考えましたが、木を切ったり草を集めた痕跡すらいっさい発見できなかったのです。
腹を立て始めたU君と黙り込んだままのYちゃんを後ろに私は呆然と立ち尽くし、半ズボンのポケットの上から流星バッジを固く握りしめていました。

次回へ続く