悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (303)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百八十八

百二十一人の中(うち)の‥ 百十七人だって!!?‥‥‥‥

問い質した答えとしてヤツが口にした百十七という数字に、ぼくは驚愕(きょうがく)を通り越して、只々(ただただ)時が止まったみたいに硬く凍りついてしまった。

「 そこまで驚くことは無いだろう。当然の成り行きさ‥ 」 やつは冷たく言い放った。 「 それに『オレのヒトデナシ』が手を下した四人にしたって‥、この廃墟まで運んで腹を裂き、その後 外壁(そとかべ)に吊るしたのは『おまえのヒトデナシ』なんだからな。つまり、今 外壁に並んでいる百二十一人の死体は全部、『おまえのヒトデナシ』が吊るしたものだぜ! 」
最後通告の様な、そんなヤツの言葉だった。ぼくの全身の毛穴から、冷や汗が一気に噴き出した。

「 おまえは『おまえのヒトデナシ』に汚い仕事を全部押しつけて、そうやって何も知らなかったみたいに驚いてられるが‥‥、この仕事の徹底ぶりを振り返ってみると‥、『おまえのヒトデナシ』にとって‥つまりは忘れているおまえ自身にとってもこの仕事は‥‥、他の何よりも優先させるべき 最重要事項 だったのかも知れないな‥‥‥‥ 」

「 なッ! 何をバカなことを言ってるんだ!? 」 咄嗟(とっさ)にぼくの口から、反論が飛び出していた。ヤツの意味不明の物言いに、だんだん腹が立って来たのだ。
「 あんな!切り裂かれた腹から飛び出した内臓を『大きな赤い花』に見立てて! そんな死体を廃墟の外壁ぐるりに百二十一体も吊るして見せて! それがどうして最優先の!最重要事項だって言うんだ?! 」

しかし、ぼくの反論に対して、ヤツは淡々と冷静に こう反論した。
「 ふん‥ 巨大迷路廃墟の外壁への『大きな赤い花』の飾(かざ)りつけは、あくまで副次的(ふくじてき)なものに過ぎない。大勢の人々の腹を裂いて内臓を引き出した行為には、まったく別の目的があったんだ。その目的はおまえが一番よく知っている‥‥ はずなんだがなあ‥‥‥‥ 」

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (302)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百八十七

「 道理(どうり)で『おまえのヒトデナシ』は‥ よく働くわけだ‥‥ 」

そんなヤツの皮肉交(ま)じりの言葉に、先ほど見せられた『巨大迷路廃墟の外壁(そとかべ)にずらりと連なっていた、腹を裂かれて逆さまに吊るされた数々の死体』の映像が、ぼくの脳裏に甦(よみがえ)った。
嫌な予感がした。
一体どこまでが『ヤツのヒトデナシ』の仕業(しわざ)で、どこからが『ぼくのヒトデナシ』の仕業なのか、今すぐはっきりとさせたかった。
「 おっ おまえの言う‥ 『ぼくのヒトデナシ』が よく働く とはつまり‥‥‥ 」 ぼくは矢も楯(たて)もたまらず、その答えを求めてヤツを促(うなが)していた。
「 外壁に吊るされた百二十一人の犠牲者のうち‥‥、『ぼくのヒトデナシ』が手を下したのはそのうちの 何人なんだ? 」きっぱりとそう口にして、ヤツを見つめた。

そんなぼくの前のめりの態度に、ヤツも真面目な顔になって、真っ直ぐこちらを見つめ返してきた‥‥‥‥‥‥

「 ふん! さっき説明したばかりだろうが‥ 」 ヤツの声が不満げに、ぼくの耳に響いた。 「 外壁に吊るされた者達の中で『オレのヒトデナシ』が排除したのは、教頭先生、送迎バスの運転手、パトロールにやって来た警察官二名で、いずれもこの遠足の継続を危(あや)うくする存在だった。その四人、それだけだ 」

「 そっ、それだけだって?!! 」 ぼくは驚愕(きょうがく)した。

「 ああ、つまり‥ 百二十一人から四を引いた百十七が、『おまえのヒトデナシ』が手を下した人数だ 」
ヤツは、何の特別な思い入れも示さずに、ただ淡々と、そう答えた。

次回へ続く