悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (293)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百七十八

‥そうか‥‥‥
そうだった‥ のか‥‥‥
だからぼくは‥‥‥
ここにこうしている‥ わけか‥‥‥‥

ぼくに、自覚が芽生(めば)えつつあった。
ヤツが指摘した『後悔』と『復讐心』という二つの感情は、確かにぼくの内面に今もどす黒く渦を巻くものに相違なかった。そしてぼくは、その負荷(ふか)を抱えきれなくなったからこそ‥‥ だからこそここにこうしているのだろうと‥‥・
そうさ‥この『遠足』は、春の朝の病床の窓から、リュックを背負って集合場所に向かう小学生の群れを見かけたソラが、羨(うらや)ましさを滲(にじ)ませて口にしたものだから‥‥、ついつい約束してしまったんだ。ソラが小学校に入学する前でも、ソラが元気になり次第(しだい)‥‥、ソラにまだ同級生のお友だちができていなくても、とうさんとかあさんが小学生に逆戻りしてでもソラのお友だちになって、他にもソラの知っている大人のみんなもたくさんたくさん誘って‥‥、おおぜい一緒で遠足に出かけられるからと‥‥‥‥‥

「 そうさ、つまり『後悔』と『復讐心』という二つの強い感情に支配されて壊れかけていたおまえは、その元々が亡き娘とのただの架空の口約束だった『遠足』に、『妄想という名のはけ口』を見い出したんだ 」
ここで、ぼくの思考をすっかり見透かしていたヤツが、いきなりの口を挟(はさ)んできた。
「 そうしてその『妄想世界』の行先に選んだのが、おまえが少年だった頃まで『ヒトデナシ』の伝承が実(まこと)しやかに語り継がれていて、さらには、かつての賑(にぎ)わいも過去の記憶となって、草に埋もれてただ朽ち果てるのを待っている『巨大迷路廃墟』が現存しているかも知れない‥この‥‥『ハルサキ山』と言うわけだ‥‥ 」

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (292)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百七十七

「 何かの‥ 冗談なん‥だろ??‥‥‥‥ 」
ヤツの言う『大量殺戮(さつりく)』が、ぼく自身の描いたシナリオによるものだということを、ぼくは到底(とうてい)信じられなかった。
だが‥、心のそこかしこに蟠(わだかま)っている闇の中で、まるで鬼火のような炎がずっとくすぶり続けていて、今も怪しく明滅(めいめつ)を繰り返しているのを感じ取っていた‥‥‥‥

「 だったらおまえに質問するが、どうしておまえは『ハルサキ山』にいる? 」 ずっとぼくの目を覗き込んでいたヤツが、いきなりそう切り出した。
「 どうして? 」
「 そうだ。 どうしておまえは、わざわざ『ヒトデナシ』の伝承がある『ハルサキ山』へ、こうやって小学生の姿をして『遠足』にやって来たんだい? 」
「 そっ それは‥‥ 」
「 さらに言うなら、なぜ『ハルサキ山』には『巨大迷路廃墟』が、今もこうして取り壊されもしないで残されている? 」
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 」

ぼくは言葉に窮(きゅう)していた。答えるのは容易(たやす)いように思えたが、それらを一つ一つ説明しようとすると、言葉が出てこなかった。

「 何なら、おまえの代わりにオレが答えてやろう。 今のおまえ、今の壊れかけの精神を抱(かか)えたおまえの内(うち)には、『どうにか処理しなければならない二つの強い気持ち』が、絡み合った形で同時に渦を巻いているんだ 」
「 二つの? 強い気持ちだと?! 」
「 そうだ! 一つ目は、失ってしまった愛娘(まなむすめ)に対する、永遠に取り返しのつくことがない『後悔』。そして二つ目は、現代医療に裏切られたという思い込みに根ざした人間社会への失望と不信感、自分が永遠に失ってしまったものを享受(きょうじゅ)できる者達への妬(ねた)みの感情に培(つちか)われた、まったくもって自己中心的な、誰彼(だれかれ)構(かま)わずその矛先(ほこさき)が向けられた『復讐心』だ! 」

次回へ続く