悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (296)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百八十一

ぼくが拵(こしら)えた‥『ぼくのヒトデナシ』‥か‥‥‥

ぼくは、自分自身に深く問いかけていた。
ヤツが操(あやつ)っていた『ヤツのヒトデナシ』と『ぼくのヒトデナシ』では、一体全体どこがどう違うというのだ?
ヤツは、ぼくの頭の中にある『ヒトデナシ伝承に関する情報』をトレースすることで、この世界にヒトデナシを出現させたらしい。だったら、ぼくがぼく自身の記憶情報から、このハルサキ山世界の一部としてセットで拵えた『ぼくのヒトデナシ』と‥、然(さ)したる違いなど無さそうな気もするが‥‥‥‥

「 ふん‥ なかなか面白いところに気を回す男だ‥‥ 」 ぼくの思考に、ヤツがすかさず口を出してきた。

「 勿論(もちろん)、違いは在るだろうな。おまえのヒトデナシ情報をトレースした際に、細かなニュアンスなどはある程度抜け落ちていったものがあっただろうからな。それに、オレの操っていたヒトデナシには、おまえのシナリオ通りに事を進行させていくという、はっきりとした目的意識があったはずだ 」

「 ‥‥‥‥うむ 」 ぼくは、首を少し捻(ひね)って考え込んだ。

「 おまえは、『ヒトデナシ』のことを頻(しき)りに‥『魔物』と呼称していたが、それはおまえが幼少期に、『ヒトデナシ伝承』を大人たちから聞き及んだ時に生まれた、おまえの『ヒトデナシ』に対する独自の認識なのか? 」

「 ‥‥‥‥分からない。正直、あまり覚えていないんだ‥ 」

「 おまえの発していた『魔物』という言葉には、『反社会性』あるいは『反人道的』な意味合いが、あまり感じ取れず、例えばファンタジーの世界に登場する『魔導士』のように、展開によっては白くも黒くもなるグレーゾーンの存在を、オレに思い浮かべさせたんだ 」

「 ‥‥うむ それは‥‥‥‥ 」 ぼくはヤツの言葉に、まるで尋問(じんもん)のような、非難の圧力を感じ始めていた。

「 もしかしておまえは、ここハルサキ山で『おまえのヒトデナシ』という『魔物』に、ふたつの役割を担(にな)わそうとして、この世界に召喚(しょうかん)したのではないのか? ひとつは‥、日に日に募る幾多の人々に対する復讐心の、その執行者(しっこうしゃ)としての『ヒトデナシ』と‥、ふたつ目には、執行したそんな彼らの血と肉を生贄(いけにえ)にして‥あわよくば、今は亡き最愛の娘の永遠の復活を実現させてくれる魔術の司祭(しさい)としての『ヒトデナシ』‥だ 」
そう言ってヤツは葉子先生の顔に、ぼくへの侮蔑(ぶべつ)の笑いを張りつけて見せた。

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (295)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百八十

「 おまえの『ヒトデナシ』は‥‥ 今どこにいる? 」

「 えっ?? 」
ぼくは、当惑した。突然のヤツの問いかけの意味が、まったく理解できなかったのだ。

「 こっちで用意して操(あやつ)っていた『ヒトデナシ』には、おまえのシナリオに沿って行動をさせて来たつもりだが‥ だが、どうもそれ以上のことが起こっていた痕跡がある。だから聞いてみたんだ‥‥ 」

「 ‥つまり、きみが出現させた『ヒトデナシ』以外にも『別のヒトデナシ』がいて‥‥ それが『ぼくのヒトデナシ』だって言いたいわけか? 」

「 ああ、その通りだ。この世界を拵(こしら)えたのはおまえ自身だからな。つまり、遠足の目的地である『ハルサキ山』が拵えられた時、『ヒトデナシ伝承』と『巨大迷路廃墟』もそのセットとして、全てを引っ括(くる)めて同時に創造されたと考えるのが妥当だろう。‥違うか? 」

「 ‥‥‥う‥む 」 ぼくは、返す言葉に窮(きゅう)した。
違うか? と問われれば違わない気がするが、ぼくにはやはり自覚はなかった。
ただ、違和感みたいなものを持ち続けていたのは確かだ。
ぼくはこの遠足に来て今に至るまで、一度も『ヒトデナシ』の姿を目撃してはいない。出現情報のそのほとんどは、モリオとツジウラ ソノ、フタハやミドリたちから齎(もたら)されたものだ。もちろん、出現直後の生々しい傷跡は見ていて、ばらばらに千切れた風太郎先生の体や血まみれになった葉子先生の背中‥、手首を切断された後、巨大迷路廃墟の外壁に腹部を切り裂かれ逆さまに吊るされた水崎先生の変わり果てた姿‥などで、その臨場感をそれなりに味わっていた。そして、その水崎先生の行方を辿(たど)って巨大迷路廃墟の外壁にたまたま接近していたぼくは、水崎先生の死体の隣に、教頭先生の死体が彼女と同じ様に吊るされていく正(まさ)にその瞬間を、偶然目撃している。その時は、『壁一枚隔(へだ)てた向こう側』に何者かがごそごそと動き回る気配がしていて、その者こそが『ヒトデナシ』本人に間違いないと思った。
そんなニアミス的な状況や、遠くから聞こえて来た『逃げ惑うみんなの悲鳴らしき声』などのぼく自身の体験と、モリオたちみんなが語って聞かせた遭遇情報を、頭の中で大まかな『時系列(じけいれつ)』として並べてみると、『ヒトデナシ』が二つの離れた地点にほとんど時間差なく現れていたり、人まねをする声や気配を、同時に複数の違う場所に残していたことに気づかされるのだ。

「 つまり‥‥ 『ヒトデナシ』はこのハルサキ山に複数いて‥‥ ひとつはヤツがシナリオに沿って、『シナリオ通りに操っていた ヒトデナシ』と‥‥‥ もうひとつはぼく自身が、『ハルサキ山とセットでいっしょに拵えた ヒトデナシ』だと?‥‥言うことか?‥‥‥ 」
顔を伏せたまま呟(つぶや)いたぼくの独り言に、コクリと頷(うなず)くヤツの葉子先生姿が‥、目の端(はし)に映っていた‥‥‥‥

次回へ続く