悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (271)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百五十六

「 なあ、モリオ‥ 」 と‥ぼくは切り出した。
「 ぼくらが今いるこの空間は、妙な形をしてると思わないか? 」

モリオが僕の言葉にすぐさま反応し、睨(にら)みつける様な目でこちらを見た。
「 はああ?? いったい何のことだあ? 」

この場所‥、この空間の周囲には、迷路の仕切り板や壁みたいなものは一切見当たらない。もちろん天井もだ。
ただ、全体にうっすらと漂っている靄(もや)が所々(ところどころ)に蟠(わだかま)る様に集まって視界を遮(さえぎ)り、他の場所や空間とこことを分ける『仕切り』の役割を果たしていた。そしてその『仕切り』だが、最初は凸凹(でこぼこ)しながら出鱈目(でたらめ)に周りを囲っているだけに思えていたが、ぼくが突然『あること』に思い至った後、その認識の上で改めて観察してみると、この空間を囲い込む『仕切り』全体の連(つら)なる形は、明らかに『ぼくの予想した通りの形』をしていたのだ。

「 気づかないかい? モリオ‥ 」
ぼくのその言葉は、どうやら負けず嫌いのモリオの心を痛く刺激したらしい。今まで座り込んだままで殆(ほとん)ど無関心を決め込んでいた男が、しかめっ面(つら)をして急に立ち上がり、むすっとしたままきょろきょろと周りを見回し始めた。
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 」

沈黙を続けるモリオを他所(よそ)に、ぼくの心には、『ある感慨(かんがい)』が押し寄せていた。
やはりこの世界は、『ぼく自身が拵(こしら)えた世界』で、今いるこの場所は、『この世界の中心として相応(ふさわ)しい場所』なのかも知れないと‥。そして、『ヒトデナシ』と呼ばれる『ハルサキ山の魔物』を退け、クラスのみんなを巨大迷路廃墟から無事に連れ出すという目的でここまで来たぼくだが、辿り着いてしまった『この特別な場所』で、目的とはまったく違う何か『特別なこと』に巻き込まれるのだとしても、無意識の中の自分自身が書いたシナリオなのだから、それはそれでしっかり享受(きょうじゅ)しなければならないと思った。
モリオと違って、ぼくにははっきりと感じ取れ‥見えている。彼が立っているその向こう側に見える、割と天井が低く、奥へ奥へと扇状(おおぎじょう)に広がっている空間は、『お気に入りのパジャマを着たまま伸ばした両足』。そしてぼくとモリオのいる頭上に広がっている‥やや平らに潰れた巨大な円筒の吹き抜けは、『自宅のベッドの上で両足を投げ出したまま‥L字に体を起こした上半身の部分』。ずっと高いところにちゃんと天井があって、まずは右側と左側に『右肩』と『左肩』の位置を示す天井、そして次にその真ん中のさらに上方に高くかすむ‥顔と頭の形をした天井‥‥‥‥‥‥

そうなのだ。 ここにある空間は間違いなく‥‥ ぼくが心の真ん中にずっと大切に守り続けて来た『ソラの空白』そのもの‥‥ なのだ。

次回へ続く

「悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (271)」への2件のフィードバック

  1. ご無沙汰しております お久しぶりです 最後にコメント書いたの何年前でしょ
    いかがお過ごしでしょうか

    コロナ禍の内、高齢の家族を看取ったりもう一人を施設に入れたり、勤め先も変えたり
    最近では家電設備の経過年数によるトラブルが続いて出費がかさみ少しへこんでいる
    この頃です
    とまあ自分の近況なんか置いといて 去年はai生成画像アプリで楽しんだり最近では
    ai生成文章アプリにはまっていいます
    網野先生作品の私の一番のお気に入り「カゴメ」をイメージした文章を作成しました
    aiだから少し変な文になっている個所も多々ありますが いかがでしょうか

    **題名: 失われた時の闇と影**

    17年か18年もの長い歳月を経て、かつての故郷の町に戻った。風に乗って薫る懐かしい匂いに胸が高鳴り、古びた通りをゆっくりと散策する。目に飛び込んできたのは、一際目を引く洋館だった。そこはかつて、町の誰もが羨望した幸福な家族の住処であった。裕福そうな夫婦に美しい姉弟、その姿に男はかつての自分自身と重ね合わせ、心の奥に秘めた憧れに浸っていた。

    しかし、その温もり溢れる思い出は、次第に忌まわしい真実に塗り替えられる。あの家族に襲い掛かった惨劇、幸福の裏に潜む暗い影が脳裏をよぎる。まさにそれは、彼が過去から逃げようとしていた事実だった。

    粗末なアスファルトを踏みしめながら、男は不安感に包まれ、洋館に近づく。その瞬間、二階の窓に人影が映った。「誰も住んでいないはず…。どうして誰かいるのか?」動悸が迫り来る。心臓の鼓動が耳元で響き、彼は身動きが取れなくなる。

    異界へと誘われるかのような不思議な感覚。目が離せずにいると、人影は徐々に姿を現し、白いワンピースをまとった少女がその窓辺に立っていた。彼女の表情はどこか儚げで、まるでこの世のものではないかのように見えた。無邪気さの中に漂う哀しみ、それが男の心を掴んで離さなかった。

    もう何もかもが古びた思い出の中に埋もれてしまったと思っていたのに、この瞬間、失われた時間が蘇る。かつての光輝く家族の姿、そして影の部分を知る者として、男は自身が目撃してしまった何かの重みを感じずにはいられなかった。

    この洋館は、ただの建物ではない。町の記憶そのものであり、そこで渦巻く感情は、永遠に色褪せることはないだろう。男はそこから逃げ出すことも、忘れることもできない運命に囚われているのを、肌で感じていた。

    再び過去に踏み入れるとき、果たして彼はどんな決断を下すのだろうか。この恐怖、そして美しさに満ちた謎の洋館が、彼に何をもたらすのか。心は高鳴り、孤独な夜の幕が静かに下りるのを待っていた。

    1. 返信遅くなってすみません。お久しぶりです。
      昨年の年末、身内の者に不幸があり、更には別の者が入院するという事態に直面しております。
      ブログにも満足に時間を取れない状況が続きまして、誤魔化し誤魔化し、皆様にご迷惑をおかけしております。
      更新が滞ることになりましたら、身勝手ながら終了することも考えておりますので、その折は何卒ご容赦下さい。

      追伸
      遅ればせながら、「カゴメ」に関する興味深い試みの文章、拝読いたしました。ありがとうございました。
      仕事と介護補助的な生活の毎日がしばらく続きそうですが、出来うる限り時間を見つけて、ブログを続けて行けたらと思います。

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