悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (27)

第一夜〇タイムカプセルの夜 その十二

‥‥悪意の巣窟‥‥‥‥俺は、委員長の言葉を反芻(はんすう)してみた。

「‥・悪意って‥‥そんな大層なものじゃないさ。少々やりすぎで腹も立つが‥所詮程度の低い子供のやる、遊びの延長線上のいたずらだ」
委員長の言葉に対して、俺はどういう訳かここに潜んでる奴らを擁護するような発言をしてしまった。
「へー‥・まるで加害者側の立場を代表するようなことを言うのね。だったら私は、その遊びの延長線上とやらの、いたずらの被害者側の立場から意見を言わせてもらうわ」委員長が真っすぐに俺を見た。

まずい。と俺は思った。こんな会話を続けてはいけない。
しかし、俺の心情をよそに委員長は淡々と語り出す。
「子供のいたずらにしたって、つまりは人をおとしめて笑いものにする、その子を見下すことで自分の優位性を確認して快感を得る‥・そんなところよね。本人に自覚はないのかも知れないけど、これって立派な悪意のひな型よ」
「ちっ違うんだ。俺が言いたいのは、子供ってもっといろんなこと考えてて‥しかもそれをどう表現していいのか分からなくて‥‥‥‥」反論しようとした俺の言葉はそこまでしか出てこなかった。

黙り込んだ俺を委員長はしばらく見つめていたが、フー‥と小さく息を吐いて廊下の天井を見上げた。
「ねえ‥‥‥学校てどんな場所だと思う?」
「‥‥‥‥どんな場所て‥‥‥そりゃあ勉強を教わるとか‥‥‥‥‥‥」
委員長の視線が天井から、ふたたび俺に戻って来た。
「私にとって小学校は、結構過酷な場所だったわ‥‥‥」
「過‥酷?」俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「いろんな子がいた‥‥金持ちの子、貧乏な子、親の無い子、愛され過ぎた子、愛されてこなかった子‥‥‥それぞれがみんなそれぞれの未熟な価値観を待ってて、今持ってる精一杯の価値観を剥き出しの刃(やいば)のままぶつけ合い、擦り合わせるの。それはきっと、社会へ出る準備として必要なことなんだけど、時々心が血まみれになってた。価値観が揺らいだり脅かされた時、人はどうするのかしらね‥‥我慢する?それとも仲間でも集めて相手を攻撃する?差別やいじめが生まれてくるのは当たり前よね‥‥‥‥」
そして表情ひとつ変えず、こう締めくくった。
「悪意なんてそこら中にあった。いつだって湧いてくる‥‥」

委員長の言葉が、廊下に響いた。その余韻が、いつまでも耳に残った。
彼女の背後に並んだ掲示スペースの罵詈雑言のひとつ、「様あ見やがれ」の文字がぼんやりと目に映る。
弁解の余地など無い‥‥‥。俺が委員長にやっていたことは‥‥やはりいじめ‥‥だったのか‥‥‥‥‥
頭の中が痺れていった。

と‥目線を下げたその先、最下段にあって今まで見落としていた文字、「ボケ」と「カス」に挟まれたとんでもない二文字、今ここにあってはいけない二文字が目に飛び込んできた。
「あっ」俺は我に返った。
委員長の横をかすめ、たくさんの画鋲が靴底に刺さるのも構わず掲示スペースに向かい、その二文字を勢いよく剥がしてクシャクシャに丸めた。
「どっ、どうしたの?」委員長が俺のただならぬ様子に気づいた。

「‥‥‥何でもない」俺は委員長に背を向けたまま、その丸めた紙をズボンのポケットにつっ込んだ。

次回へ続く

 

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