悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (17)

第一夜〇タイムカプセルの夜 その二
街の喧騒からやや距離を置いた立地に、鉄筋コンクリート造り三階建ての校舎と土のグラウンド。
全国どこにでもあるごく普通の小学校だった。
取り立てて言うなら、花壇や植木がたくさんあって、みな良く手入れがされていた記憶がある。季節の花々は子供の目にもやはり綺麗で、女子は嫌がっていたが虫だってたくさんいた‥‥‥・

そんな‥十年ぶりに足を踏み入れた真夜中の母校に今、土を掘り返す複数の音が響いている。
幾らタイムカプセルを埋めた覚えが無くても何もしない訳にはいかなくなった俺は、これも同窓会の余興の一つと割り切って、グラウンドのフェンス際に立つ桜の木の根元辺りを掘り始めた。

「ひやーッ! 何よこれ⁉」
校舎の脇の花壇の方から奇声が聞こえた。
見ると、高橋と山本の女子コンビが騒いでいる。花壇の囲いと囲いの間の土の中から何か見つけたようだ。
「骨よ! 骨! 動物の骨がいっぱい!」
「きっとウサギのケイスケの骨よ!こっちの鳥の骨はセキセイインコのピヨ子かも⁉」
「いなくなった野良猫のクリスティーンの骨もあるかもよ⁉」
「ここは!ペットセメタリーだったのね!」

フン‥と俺は彼女たちから目を背け、他のみんなはどうだろうと見渡してみた。
一流大学の山崎は本校舎と体育館の間の空間に目を付け、慎重にシャベルを立てている。
大男になった木村はグラウンドにいて、力任せにそこら中片っ端から穴を開けていて、小太りで小柄の小川はその補佐にまわっていた。
おいおい、いくら何でもグラウンドの中にタイムカプセルなど埋めやしないだろう‥‥
影の薄いもう死んでいるかも知れない島本はやはり作業に参加せず、今度は鉄棒で逆上がり練習を始めていた。そのシルエットが、何度も何度も鉄棒に絡んでは落ち、絡んでは落ちを繰り返している。
委員長はと言うと、俺の元カノのかおりとこちらに背を向け、何やらひそひそ話をしている。
俺はその内容が気にはなったが、どういう訳か急にいたずら心が湧いてきて、とんでもない物でも掘り当てて、委員長や他のみんなをびっくりさせてやりたくなった。
学校の敷地がむかし墓地だったと言う噂を聞いたことがある。こうなったら、在りもしないタイムカプセルの代わりに人骨でも掘り当ててやろうじゃないか‥‥‥

ある者は一心不乱に、ある者は適当に作業を続けた結果、しばらく経つと校庭は大小様々の穴だらけになっていた。

ガガガガカカッ!
突然大きな機械音が響き渡った。
ショベルカーだ。ショベルカーがグラウンドを横切って行く。
運転席には黄色いヘルメットを被った小川が乗り込んでいて、こんなものをどこから⁇と思う間もなく、グラウンドのど真ん中に巨大な爪を立て始めた。
ガガゴガゴ‥ガゴン!

ばらばらに作業をしていたみんなが集まって来た。
俺を含めて一同が呆然としている前で、見る見る大きくて深い穴が掘られていった。
何かに気づいたか、山崎がひとりその穴に近づいて行って、注意深く覗き込む。そして、操縦している小川に向かって手を振り、作業を制する合図を送った。
ショベルカーの動きが止まり、山崎が俺たちの方を振り向いた。

「あったぞぉお!タイムカプセルゥゥ」
いつも冷静だった山崎が、興奮して言った。

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (16)

時に夢は‥・忘れていた過去を運んでくれる。
懐かしい忘れ物として郷愁に浸れるのなら吉。
そうではなく、心の何処かを酷くかき乱されたなら‥‥・夢は悪夢である。

第一夜〇タイムカプセルの夜 その一

‥‥どうやら、同窓会があったらしい。

小学校の同窓会で、ほぼ十年ぶりの再会?‥‥‥
俺が覚えているのは、そのうちの恐らく半分ほどのメンバーで向かった居酒屋での二次会からである。
みんなまだまだ飲みなれてはいない酒だったが、かなり入っていて、バカみたいに盛り上がったのが当時の特撮ドラマやアニメのキャラクターについての話だった。さらに話は巡り巡って、誰かが人間の「性善説」「性悪説」について大いに語りだした頃には、一人二人と脱落者が出始めていた。
俺も酔っぱらっていて、眠くなってきていた。そんな時、もう一人の誰かがこんな事をぼそりと口にした。
「‥卒業記念にタイムカプセル‥‥埋めたよな‥‥‥‥。あれって、いつ掘り返すんだ?」

次の瞬間、俺たちは真夜中の母校の校庭に立っていた。

小太りで小柄の小川が、シャベルを三本調達して来た。今は家業のお店で働いているらしい。
「いつも気が利くじゃないか」一流大学を現役で合格した山崎が、そのうちの一本を受け取った。
「俺にまかせろ」もう一本を木村が受取リ、軽々と振り回した。小学生の時クラスで一番小さかった奴が、今は一番の大男に変貌を遂げている。
「で‥‥どこ掘ればいいんだ?」
「え?」
「あれ?そう言えば‥どこ埋めたっけか‥‥」何をやる時も一緒の女子二人、高橋と山本が相も変わらず手をつないで、一緒に辺りを見回した。
ポン、ポココ‥と音がした。
一同目を向けると、グラウンドの真ん中あたりで我関せずというように誰かがサッカーボールと戯れている。島本だ。当時から影の薄い奴で、卒業後何度か死亡説が流れていた(あれ?結局本当に死んでたんじゃあなかったっけか‥‥)。

「委員長に聞いてみればいいよ」
そう提案したのは、かおりだった。
「か、かおり。何でおまえがここにいんだよ⁈」俺は思わず問いただした。だってそうだろう‥かおりは俺の高校生の時の彼女で(ちなみに、こっぴどい振られ方をした‥)、小学校の同窓会とは無関係だ。

「答えてよ、委員長」
質問を無視して、かおりは真っすぐ俺の方を見て言った。
他のみんなも俺の方を見た。
「おいおい、待てよ。俺は委員長じゃあ‥」
「ごめんなさい。私にも記憶が無いわ」俺の背後から女の声がした。

振り向くと、俺の真後ろに委員長が立っていた。
俺はその日、初めて彼女に会った気がした。綺麗な長い髪はそのままに、すっかり大人になっていて‥眩しかった。
「みんな覚えてないみたいだから、埋めそうな場所を手当たり次第に掘るしか無さそうね」

どういう訳かそんな理不尽な委員長の言葉に、みんなは素直に従った。
あちらこちらに散らばり、思い思いの場所を掘り始めた。
小川が、いつまでも動き出さない俺に、黙ってスコップを手渡した。
俺はしょうがなくそれを受け取ったが、みんなに言ってやりたい一言が喉まで出かかっていた。

俺たちって‥‥そもそもタイムカプセルなんか埋めたっけ??‥‥‥‥

次回へ続く