序〇糞(ふん) その三
「フン?‥・フンて‥動物のウンチのことかな?」
男はからかわれていると思い、おどけて返した。
少年は男の方を振り向きもしない。相変わらず手にした棒で、土くれのようなものを突つきまわしている。
そして言った。
「糞は糞さ。ただ、あんたが考えてるような生き物の類(たぐい)の糞ではないがな‥‥」
少年の声は変声期前のそれであったが、一つ一つの言葉は落ち着き払っていて、幾分の威圧感すらともなっていた。
「ほう‥何かすごそうだ。きっとその糞には秘密があるんだ‥‥」
「ああ‥・。こりゃあ獏の糞だからな。」
「バク?」
少年は手を止めて立ち上がり。前方の何かを見定めてゆっくりと歩き出した。
男は、バクってあの獏かい?と問おうとしたが言葉をのみ込み、しばらくは黙ってついて行くことにした。
ガサガサと棒でかき分けながら、丈の高い草が生い茂る中へ入って行く少年。男も迷わず後に続いた。
「‥‥よほど興味があると見える‥」やはり振り向きもせず、少年は呟いた。
「そうら、見つけた。」
ぽつんと一本の木が根をはる木陰、少年は再びしゃがみ込んだ。
「今度のは当たりかも知れねえ・・・」そう言いながら、先ほどと何ら変わらぬ土くれに見える「糞」を、棒で突つき始めた。
次回へ続く