悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (2)

序〇糞(ふん) その二
‥昭和の子供‥‥‥
男の受けた印象はそれだった。

大きめの麦わら帽子。くたびれたランニングシャツに半ズボン。袈裟懸けに、布で出来た袋のようなバッグを下げている。
手には、その辺で拾ってきたお気に入りだろうか、長めでまっすぐな木の枝を握っていた。
今いる自然に満ちたこの風景に、何とも似つかわしい人物だろうか‥・
男がそう思って眺めていると、少年は歩き出した。

やや前屈みになって、手にした棒で草をかき撫でながらゆっくりと進んで行く。
どうやら、草に隠れた何かを探している様子だ。

やっぱり昆虫採集か‥それとも役に立つ野草でも探しているのかな?
男は興味を覚え、少年に近づいて行った。

「何をしてるんだい?」
「‥‥‥‥‥」
少年は答えることなく進んで行く。男は苦笑いして、聞こえぬため息をついた。
それでも他にすることが無さそうなので、少し遅れて少年の後ろをついていった。

数本の低木が陰を作る草むらまで来た時だ。少年がおもむろに屈み込み、棒で何かを突っつき始めた。
男はさり気ない様子で近づき、少年の肩越しにのぞき込む。
しかし、期待に反してそこにあったのは、何の変哲もない土くれにしか見えない代物だった。

男は呆れ顔で再び声を掛けてみる。
「一体‥それは何なんだい?」

「‥‥‥‥糞。」
少年から答えが返って来た。

次回へ続く