最終話「夕暮れ」 その二
幼年期の終わり‥・少年期の終わりは‥‥‥
例えるなら
遊びに夢中になっていて迫りくる夕暮れに気づかず、我に返って辺りを見回してみた時にはすでに日が落ちきって、薄闇が広がっている。暗くなっては遊べない。
「それじゃあまたね、また明日遊ぼうよ。」顔の表情も読み取れなくなった友達とそう言い合ってとぼとぼと家路につく。
そして翌日、窓の外は雨。雨は降り続き外遊びはお預け。
次の日も雨。その次の日も雨で、当分は外遊びは無理みたい。
「そのうち晴れるさ。止まない雨はない。」
その通り、雨は数日後には上がった。
しかし、その時にはもう僕らは、あれだけ夢中になった遊びの遊び方を、すっかり忘れてしまって‥‥・いた‥とさ。
というような感覚でしょうか。
「夕暮れ」が知らせてくれた「終わり」に気づかず、随分あとになって「あの日の夕暮れの意味」を自覚するのです。
小学六年生の夏休みが終わり、大阪万博も閉幕して、やがて秋が深まりつつありました。
私が学習塾に通い始めたのは、確かこの頃だったと思います。学習塾といっても田舎ですから、民家の畳の部屋に長机を並べて10人ほどが先生を囲むという規模のものですが、内容は厳しくしっかりとしていました。
習ったのは中学の英語と数学で、お下がりの教科書(私の場合兄のお古だった)を使って、「鉄は熱いうちに打て」と言わんばかりにまだ体験してもいない中学の授業を先取りして、どんどん進んで行きました。英語などは実際、四月になって本当に中学に入学した時には1年の教科書はすでに習い終えていて、さらに二巡目で一冊全部の丸暗記を始めていた程です。
勉強は嫌いではなかったと思います。しかし週に三日、宿題もあって、自由に過ごせる時間が急に少なくなったのを実感していました。
道草、寄り道、回り道、様々なものに好奇心を向ける機会は、着実に減っていきました。不思議不可思議より、英語の文法や数学の方程式。
少年時代の日が暮れようとしている‥‥・おそらくそんな時期でした。
次回へ続く