ぼくらのウルトラ冒険少年画報 (10)

第二話「長いトンネル」 後編
歯の治療を終えての帰路、私は連絡バスで再びトンネルを抜けようとしていました。

トンネルの壁に突然現れた「顔」を目にした衝撃はその日一日中私の頭の中を占領し続けました。
例によって「安心」を手に入れる方法はただ一つ、帰りにその場所を観察して「顔」に見えたものが何だったのかをしっかりと確かめる事でした。
・・・しかし私はそれをしません。できなかったのです。再度それを見てしまうともっと嫌な何かを背負いこんでしまいそうな気がしたからです。
バスがトンネル内に侵入すると私は目を伏せ窓の外を見ないようにしていました。
いつもより長い通過時間。いつもより長いトンネル。

バスがやっとの思いでトンネルを出ました。しかし私の「安心」はバスのバックミラーに映るトンネルの出口とともにどんどんと遠ざかっていったのでした。

テレビドラマの結末や謎解きを見逃した如くのその代償はしばらくして私を後悔させ始めます。
正体不明のまま捨て置く時間が長ければ長いほど、不安や謎の事象達は培養液の中でみるみる繁殖していく細菌のようにそのイメージを変形、増幅させていったのです。
「吊り上がった目とむき出しの歯を持った顔」と私の心の中に既にあった「闇」とが、新しい分子式を構成するように結合し、私には想像もつかない悪夢をもたらしました。
例えばそれは「防空壕」に潜んでいるかもしれない謎の人物に「顔」を提供します。
彼は洞穴の暗闇の中からひょいと顔だけを現し、吊り上がった目をさらに吊り上げ、歯をことさらむき出しにして笑うのです。
高らかに笑い声をあげるのです。

私は夢の中、その笑い声を遮る術を持たないただの小学三年生でした。

次回は「別冊付録」です。お楽しみに。