巨人真伝トキ回顧録 中編

「巨人真伝トキ」の当初の大まかな設定から書きます。
巨人大太(タイタラ)は日本各地の伝承(山や湖、池などの縁起譚)に登場する神もしくは妖怪ダイダラボッチ(大太法師、ダイダラ坊など様々な呼び名が存在)をモチーフにしました。
大太は巨人族と呼ばれる者達の集合体とし、太古の昔その強大な力で日本を支配していたという設定です。主人公トキ(鬨)は弱者である人間の味方をし、大太に一人立ち向かいバラバラにし封じ込めた英雄、解人として登場します。

トキのモデルはスサノオです。古事記や日本書紀にある須佐之男命は八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治し、その尾の中から天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)、もしくは草薙剣(クサナギノツルギ)を見つけます。トキ自身も結果的に巨人族の一人、大太の尾だったのですがそのあたりがスサノオ伝説を参考にし雷の太刀を携えた戦士として膨らませてあります。
巨人族には人間の様々な部位の化身を設定しました。手(右握・左握として登場)、足、骨、歯(牙連)などの具体的な物だけではなく声や血脈(紅、最初は静脈と動脈の双子の設定を考えていました)、他にも本編には登場しませんでしたが神経系、各種内蔵などもイメージしていました。

話の中心人物の一人凛子(魔芽玉)は心臓もしくは生命そのものの化身、魅渦芽己は脳もしくは意志の化身でした。
声の化身、謳(おう)がうたう事で全国各地に封じ込められた巨人族が一人一人凛子の力を借りて蘇りトキと戦いストーリーが展開していく。
トキと凛子は大太が解体された時に時空を超え記憶を失い現代に生きています。トキにとって巨人族との戦いは少しずつ記憶を取り戻していくイベントでもあった訳です。そしてトキと凛子が互いをはっきりと認識した時「巨人真伝トキ」のクライマックスとなるはずでした。

様々な事情で当初のプロットを消化しきれないまま「巨人真伝トキ」は連載終了となります。
最終話である「大太之章」は本誌(週刊ヤングジャンプ)に掲載されることなく単行本用の書下ろしとなりました。

次回、「巨人真伝トキ」の総括です。

巨人真伝トキ回顧録 前編

月一連載「リアリティー’88」の終了後、1989年に「巨人真伝トキ」は変則な形式で連載が始まりました。
「週刊ヤングジャンプ」の性質上、より多くの読者にアピールする新しい展開を期待されての始まりだったと思います。強烈な存在感のあるキャラクター。アクション(戦い)あり、謎解きありの娯楽性に富んだ作品を目指すこととなりました。
私にとって初めてのキャラクター漫画の連載は、「リアリティー’88」シリーズのような読み切り作品にはない新境地へのチャレンジで、担当編集者さんも同じ意図だったのだと思います。
実際「リアリティー’88」連載時は、月に一本新しいアイディアを捻出し決まったページ数の中に収めるという、消耗の激しい作業の連続で自分自身も結構疲弊していた状態でした。

キャラクター漫画で長編のストーリーとなれば、設定と大まかなプロットを決めておけば、ページ数展開ともに自由度の高い創作環境が与えられたのだと受けとめ執筆を開始、「解人之章」を二週連続の前・後編、約二か月後に「嘔之章」が掲載され「巨人真伝トキ」は走り出しました。

次回は回顧録中編、当初の設定と初期のプロットについて振り返ってみます。