巨人真伝トキ回顧録 後編

「解人之章 前・後編」の二週連続掲載から始まった巨人真伝トキですが、読者の方からお手紙もいただき期待も含めての反響を感じました。そして「謳之章」と続き、いざ本題はこれからという時に「わかりにくい、読者がついてこれない」という指摘を受けました。(おそらく読者アンケートの結果がでなかった)

毎週の連載と違って間隔の開く不定期連載は、話が複雑になればなるほど不利に働き、様々な話の引きや伏線が役に立たなくなります。
作画のほうも、当時専属のアシスタントを置く体制にはまだなかったので、毎回お手伝いの方を探してお願いするという不安定さで、私の力量の無さも相まって満足のいく出来栄えには到底至りませんでした。

全てを立て直す必要がありました。
読者に理解してもらうことを大前提に描くことになり、「魅渦芽巳之章」「魔芽玉之章」では大太の構成システムを象徴する壁画の洞窟を描き、観察者としての女性学者を登場させました。これは本来ならエンディングへと向かう話全体のなぞ解きを中心としたエピソードであるはずでした。
結果的に物語は終焉に向かい、このまま続けるより連載を終わらせて仕切り直しをする事となり、打ち切りが決まりました。

鈍い失望感の中、最終章「大太之章」(本誌には載らず単行本書下ろし用)を描くこととなりました。何はともあれ自分の力不足を痛感した作品でした。
ただ「大太之章」は数コマを除きほぼ自分一人で描くことにより自身の現在の画力をはっきり認識でき、作画の鍛錬になった事は一つの光明です。
書き直しができない次が無い世界ですが、巨人真伝トキを完全なものにしたい願望は今もあります。

次回は単行本「巨人真伝トキ」に一緒に収録された短編読み切り「木霊」について書きます。

「ダンケルク」観てきました

巨人真伝トキ回顧録はお休みして、本日観てきた敬愛するクリストファー・ノーラン監督最新作「ダンケルク」について書かせていただきます。
映画「ダンケルク」は第二次大戦初期のイギリスにとっての重大なエピソード、ダインケルクからの連合軍撤退を描いた作品で、様々なジャンルで評価を高めてきたノーラン監督の初めての実話を扱った戦争映画です。
私的には期待以上の興味深い作品でした。
防波堤・海・空という三つの登場人物の視点によるアプローチと、それを巧みに構成する事で描き出された映像は、観るものにリアルな戦場を体現させる事に成功しています。
時間軸を混乱することなく収束させる技巧は脱帽ものです。
もっと言わせていただければ技巧を技巧と感じさせない手腕は、改めてノーラン監督の精緻な演出を感じさせるものでした。

ちなみに戦争映画は観るものにとって何を求めるかで評価が分かれるところですが私のお気に入りの作品をいくつか挙げてみたいと思います。
「プライベート・ライアン」「スターリングラード」「戦争のはらわた」「最前線物語」それとSF映画になるのかもしれませんが第二次大戦中のドリスデン爆撃を描いた「スローターハウス5」も加えておきます。

次回は巨人真伝トキ回顧録に戻ります。