悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (279)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百六十四

「 ‥おまえは一体‥ 何者なんだ? なぜここにいる? 」 ついついそんな問いが、ぼくの口から飛び出した。

「 ‥神‥ なのか?‥‥ 」

ぼくを見ていた『高木セナの顔』の表情に、はっきりとした侮蔑(ぶべつ)の色が浮かんだ。
「 ‥‥随分と短絡的な物言いをするものだな。さっきまで、おまえはオレを、「ハラサキ山の魔物』と称してくれていたはずだが? 」

確かにヤツの言う通りだった。しかし、ここで黙り込むのも癪(しゃく)だったので、出まかせの反論が、またしてもついつい口をついて出た。
「 ぼくにとっては、『神』も『魔物』も同じ『人知を超えた存在』としての‥同義(どうぎ)なんだ 」

「 ククッ‥ クククク クククㇰㇰ- 」
「 おッ! おい!? 」
突然、ヤツが笑い出したのだ。それも可愛く、小学二年生の幼いセナの声音(こわね)で。
ぼくは、不意打ちを食らったみたいに狼狽(うろた)えてしまった。

「 本当に、都合の良い物言いだこと‥ 」
「 止めないか! セナの声で話すんじゃない! ぼくを揶揄(からか)っているのか!? 」

「 いいやぁ! 揶揄ってなどいないさ! 」 厳しい言葉とともに、声が元に戻った。揶揄っていると言うより、ぼくに少々腹を立てているのが、分った。

「 オレを『神』とか『魔物』呼ばわりするのなら、おまえだってこんな『イカれた世界』を拵(こしら)えちまった張本人(ちょうほんにん)じゃないか! おまえこそが『魔神』の呼び名に相応(ふさわ)しいぜ! 」

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (278)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのい景 その百六十三

ぼくは‥‥困惑していた。

ついさっきまでは自信満々だった。挑発してきた相手に向かって『ヒトデナシ』と名指(なざ)ししたぼくだったが、それに対するリアクションはまったく想定外のものだった。ぼくがずっと持ち続けていた『ハラサキ山の魔物』に相応(ふさわ)しい風体(ふうてい)と残虐非道(ざんぎゃくひどう)な立ち振る舞いからは程遠(ほどとお)く、それどころか自らを『ぼくの協力者』だと主張しだしたのだ‥‥‥‥‥

「 ‥おまえは本当に、水崎先生や教頭先生の腹を裂いて逆さに吊るし、風太郎先生を八つ裂きにした‥ヒトデナシなのか?? 」 ぼくはどうしても納得がいかず、目の前の『高木セナの姿と声をした存在』に質問していた。

今まで険しい表情を見せていた『セナの顔』が、呆(あき)れる様に少しほころんだ。
「 そうだ 」
答えには一切の躊躇(ちゅうちょ)もなく、明確だった。

「 目撃したみんなの話では、彼らを襲ったのは『大きな男』だったって聞いた。やはりそれも、おまえが変身した姿だったのか? 」
「 そうだ‥ とも言えるし、そうでないとも言える。つまりオレの意識は、例えばこの世界のありとあらゆる構成要素を支配し、操(あやつ)ることができる。物理的な力の行使が必要な場合は、それに適した様々な形や大きさの構成要素を集合集結させ、再構成して、その構成体に実行に当たらせる。おまえの仲間達が見た『大きな男』は、その構成体のバリエーションの一つだった‥ 」

「 だったら‥ このハルサキ山に伝わる『ヒトデナシの事件』は、全部おまえが仕掛けたものだったのか? 」
「 いや、それは違う。オレが演出した『ヒトデナシ』は、おまえの心に内在していた途切れ途切れの情報を単純にトレースしたものに過ぎない。そしてそれは、今回この世界でのみ実行されたものだ‥‥ 」

ぼくの困惑は‥、ヤツの並べ立てる言葉によってますますの拍車(はくしゃ)がかかり‥‥‥
「 ぼくの‥心に内在していた‥‥ 途切れ途切れの情報‥‥‥‥ 」
そしていつの間にか、混乱状態に突入していった。

「 ‥おまえは一体‥ 何者なんだ? なぜここにいる? 」 ついついそんな問いが、ぼくの口から飛び出した。

「 ‥神‥ なのか?‥‥ 」

次回へ続く