悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (99)

第三夜〇流星群の夜 その十三

まさに「一筋の光明(こうみょう)」が必要だったのかも知れない‥‥‥‥‥‥

このまま手をこまねいていては人類絶滅という最悪の未来も予想される、まったく終息が見いだせない事態。その真っ暗闇の中、おそらく世界に微かな希望の光だけでも灯したかったのだ。
始まりはアメリカ合衆国のNASAなど宇宙開発を研究する機関、及び幾つかの民間企業からの共同提唱だったと聞いている。ヨーロッパ連合の主だった国にロシアが加わり、結果的に中国まで巻き込んでの壮大な「軌道エレベーター計画」が発表された。

「軌道エレベーター」とは、ロケットを使わずに宇宙空間と地上とを行き来できる装置である。
SFの世界ではない。宇宙への極めて現実的な進出手段となり得る輸送機関として、近年、すでに様々な研究や開発がなされてきていた。数万キロメートル上空の静止軌道上の衛星と、赤道付近の海上に浮かべた建造物をケーブルで結び、そのケーブルに沿って運搬に適した昇降機を上下させる事で、使い捨てのロケットを使うのとは比較にならない程の低コストで、人間や物資を宇宙空間まで輸送できる。

宇宙への進出は、どんな状況下でも、永遠に人類の夢であり続けている‥‥、そう考えたわけだ。
だが、この計画が足早に推進されるに至った一番大きな理由は、世界中に溢れかえっていて今なお増え続けている「高レベルの放射性廃棄物」、つまり謎の病で石の様に硬くなった犠牲者の「遺体」、の処理問題を一気に解決できると期待されたからであろう。
計画が発表された時点での「遺体」の数は、世界で既に7億人を超えていただろう。それぞれの国でそれぞれの処理がなされていたが、それももう限界にきていた。日本においては、行われなくなったスポーツの球技場や競技場を中心に、仮置き場として「遺体」は集められてきたが、どこも満杯の状態で、新たな場所の確保をしなければならなかった。構造上、地殻変動のほとんど起こらない国の地域では、迷わず密閉して地中深く埋める方法を採用したが、「遺体」の数が想定をはるかに超える勢いで増加していったため、かかる費用で財政が破綻した。

「軌道エレベーター」が機能し、さらに増設されていけば、世界中の「遺体」は効率良く宇宙へと運び出され、宇宙空間へ放出されていくだろう。

彼女の父と母は謎の病に倒れ、自衛隊の特別処理班によって回収されていった。彼女はそれ以来、両親の姿を見ていない。
「お父さんとお母さんは‥‥‥星になるのよ‥‥‥‥‥」星空を見上げて、彼女はそう呟いた。

次回へ続く

新春漫画放談

年が明けて先日の事、H.Iさんより丁寧かつ熱い応援のメッセージを頂きました。ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。
その中で、現在の活動、そしてこれからの活動についてのご質問がありましたので、答えになるかどうかは分かりませんが少し書いてみます。

私の作家としての情報が乏しいのは、長く漫画の仕事から離れていたためですし、今も生活の糧は漫画以外から得ています。
漫画から離れたのは決して創作活動が嫌になったわけではありませんでした。少ないながらも時間の許す限りいくつか仕事もしました。しかし、漫画の世界での自分の立ち位置が最後までつかめなかったのは事実で、間違いなくずっと「絵を描くことが好き。お話を作ることが好き」ではありましたが、その二つの「好き」を同時に漫画に昇華していく難しさを、痛いほど経験しました。そもそも、何で つけぺん で描かないといけないのか、何でスクリーントーンを切って貼って削る手間をかけるのか、何ですべてをはっきりとした黒い線と黒い点(スクリーントーンは点の集合体です)で表現しないといけないのか‥‥。もちろんそれは印刷するためだとは分かっているのですが、それによって生み出された漫画執筆独特の技術や方法は素晴らしくもあり、重い枷(かせ)でもありました。作画する作業のきもは、頭に浮かんでいる絵やイメージを、どこまで紙の上に再現できるかだと思っています。執筆はいつも時間の制限があり、絵は急げば急ぐほど形式化し、記号化していきます。そのお約束みたいなものが、漫画の味であり個性であるのも理解していますし、私自身もそんな漫画を小さい頃から楽しんできました。でも結局私はそんな世界に適合できなかったのかも知れません。今みたいなデジタル技術があの頃すでにあれば随分違っていたのかと、最近つくづく思います(もっともそのデジタルが今、漫画を含む紙媒体の息の根を止めようとしているのですが‥‥‥)。
ブログを立ち上げたのは、今までの自分の仕事を整理しておきたかったのと、やり残していた事を何らかの形にしたいと考えた、言わば私の終活です。自由に時間を取れるわけではありませんが、勿論新作の漫画も描いて行けたらと考えています。どうぞ暖かくお見守り下さい。

これはおまけですが、書いてて思い出した事を最後に。
昭和の人間が薦める漫画。発売日に雑誌を買い求め、単行本を全巻揃えました。わくわくしながら紙のページを繰り、ひたすら純粋に楽しみ、感動しました。読者としての私の「漫画ベスト5」です。

「あしたのジョー」「おれは鉄兵」「荒野の少年イサム」「男組」「漂流教室」

私も随分歳を取りました‥‥