ぼくらのウルトラ冒険少年画報 (16)

第三話「秘密基地」 その五
二学期が始まったばかりの教室。私はクラスの男子数人を前に夏休みのとっておきの体験を熱く語っていました。
「基地や。二階建てではしごもついとる。緊急脱出用のロープもあるぞ。昼寝用のハンモックも作ったんや。」
私は、従弟のお兄さんたちの発想や工夫の一つ一つをまるで自分の手柄のように言葉にしていたに違いありません。

「・・・見たいな。見てみたいなぁ。」
話が終わるころには、U君、Yちゃんの二人と次の日曜日にその基地を見せに連れていく約束をしていました。

日曜日。私を先頭に坂道を登る三人。
私は出かける前にあるものを半ズボンのポケットに忍ばせていました。それは「ウルトラマン」で科学特捜隊員が胸につけていて本部との通信に使う「流星バッジ」。もちろんそれを模したオモチャで駄菓子屋で10円で手に入れたものでした。バッジの形は同じでしたが、色が黄ミドリでテレビに登場するものとはまるで違うおそらくは無許可で作られた俗にいうバッタものだったのでしょう。しかし通信時に伸ばすアンテナのギミックがちゃんとあって、それだけでも私には十分な価値がありました。
基地についたらこのバッジをつけて「ウルトラマン」の一場面を再現してみよう・・私は昨夜、床に就く前にそう決めていたのです。

右手に畑が広がる道路を通り過ぎ、岬の先端へ続く一本道を外れてUターンするように回り込み、目指す林に私たちは入っていきました。ほどよい木漏れ日が私の頬を、U君とYちゃんの顔をなでていく瞬間、三人の期待は絶好調に達していたに違いありません。

「・・あれ?」

「どうした?」
「おかしいな・・ここで間違いないはずだけど。」
目当ての場所に基地が存在しなかったのです。私は焦りを覚え、そのあたりをしばらく歩き回りました。
「何で?・・・・・」
「どうしたんや。基地はどうした。」
少し焦れたU君が私に詰め寄ります。

基地は影も形も見当たりませんでした。狐につままれたような感覚。
私はもう少し行ったところかなぁと誤魔化し、それから小一時間ほど林の中を隈なく探索しました。例えばこの林が誰かの私有地で、その持ち主が取り壊し撤去したのかとも考えましたが、木を切ったり草を集めた痕跡すらいっさい発見できなかったのです。
腹を立て始めたU君と黙り込んだままのYちゃんを後ろに私は呆然と立ち尽くし、半ズボンのポケットの上から流星バッジを固く握りしめていました。

次回へ続く

ぼくらのウルトラ冒険少年画報 (15)

第三話「秘密基地」 その四
敵の攻撃に備えて基地全体が動き出し地下に隠れ、代わりにミサイルなどが現れ迎撃態勢に変化する。
山が割れスライドしてウルトラホーク1号が発進。水を蹴散らし滝の中からウルトラホーク3号も飛び出して1号に続く・・・
1960年代中頃から後半にかけて放送された特撮テレビドラマ「海底大戦争」や「ウルトラセブン」の1シーンです。
中でも「サンダーバード」。宇宙ステーションであるサンダーバード5号が世界各地からの救難信号を受信し、秘密基地であるトレーシー島に出動要請がきます。くつろいだ感じのリビングルームが一変、壁にかけられたトレーシー一族の普段着姿の肖像写真がすべてサンダーバードのユニフォームを着た写真に変わり、パイロットのスコットとバージルが部屋に隠された通路からサンダーバード1号、2号に乗り込んで発進していく。日常を装った島がハイテクノロジーの巨大基地に変貌する瞬間です。
この一連の出動シークエンスはどれだけ当時の子供たちの心を虜にした事でしょう。

中学生の従弟のお兄さん達と出会った私はさりげなく彼らの後をついていきました。
樹々が適当な間隔で茂った林に入っていった彼らは「ここかな?」「ここがええか」などと言いながら縄やナイフ、折り畳みのできる小さめのノコギリなどを取り出します。
「何するの?」と喉まで出かかった言葉を飲み込み、私は彼らの一部始終を驚愕の眼で見ていました。
みるみる出来上がっていくのは数本の木を柱にした鳥の巣のような宙に浮いた床、はしごが掛けられロープが吊るされ草が敷かれて、ハンモックのような布まで吊るされました。

作られていたのはまぎれもなく当時子供たちの間で「基地」と呼ばれた隠れ家的な空間だったのです。

私もそれまで自然の地形を利用した簡単な「基地」を作った覚えがありますが、ここまで本格的に手の込んだ「基地」を目にするのは初めてでした。
興奮のまま彼らを手伝う事が許され私もその「基地」の隊員の一人として認められました。
遊びを学ぶべきは親ではなく数歳年上のお兄さんたち、これは当時痛切に感じた正直な思いです。
彼らを観察することでどれだけ遊びのキャパシティーが広がっていったことでしょうか。
私はその日最高に幸せでした。

次回へ続く