第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百五十六
「 なあ、モリオ‥ 」 と‥ぼくは切り出した。
「 ぼくらが今いるこの空間は、妙な形をしてると思わないか? 」
モリオが僕の言葉にすぐさま反応し、睨(にら)みつける様な目でこちらを見た。
「 はああ?? いったい何のことだあ? 」
この場所‥、この空間の周囲には、迷路の仕切り板や壁みたいなものは一切見当たらない。もちろん天井もだ。
ただ、全体にうっすらと漂っている靄(もや)が所々(ところどころ)に蟠(わだかま)る様に集まって視界を遮(さえぎ)り、他の場所や空間とこことを分ける『仕切り』の役割を果たしていた。そしてその『仕切り』だが、最初は凸凹(でこぼこ)しながら出鱈目(でたらめ)に周りを囲っているだけに思えていたが、ぼくが突然『あること』に思い至った後、その認識の上で改めて観察してみると、この空間を囲い込む『仕切り』全体の連(つら)なる形は、明らかに『ぼくの予想した通りの形』をしていたのだ。
「 気づかないかい? モリオ‥ 」
ぼくのその言葉は、どうやら負けず嫌いのモリオの心を痛く刺激したらしい。今まで座り込んだままで殆(ほとん)ど無関心を決め込んでいた男が、しかめっ面(つら)をして急に立ち上がり、むすっとしたままきょろきょろと周りを見回し始めた。
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 」
沈黙を続けるモリオを他所(よそ)に、ぼくの心には、『ある感慨(かんがい)』が押し寄せていた。
やはりこの世界は、『ぼく自身が拵(こしら)えた世界』で、今いるこの場所は、『この世界の中心として相応(ふさわ)しい場所』なのかも知れないと‥。そして、『ヒトデナシ』と呼ばれる『ハルサキ山の魔物』を退け、クラスのみんなを巨大迷路廃墟から無事に連れ出すという目的でここまで来たぼくだが、辿り着いてしまった『この特別な場所』で、目的とはまったく違う何か『特別なこと』に巻き込まれるのだとしても、無意識の中の自分自身が書いたシナリオなのだから、それはそれでしっかり享受(きょうじゅ)しなければならないと思った。
モリオと違って、ぼくにははっきりと感じ取れ‥見えている。彼が立っているその向こう側に見える、割と天井が低く、奥へ奥へと扇状(おおぎじょう)に広がっている空間は、『お気に入りのパジャマを着たまま伸ばした両足』。そしてぼくとモリオのいる頭上に広がっている‥やや平らに潰れた巨大な円筒の吹き抜けは、『自宅のベッドの上で両足を投げ出したまま‥L字に体を起こした上半身の部分』。ずっと高いところにちゃんと天井があって、まずは右側と左側に『右肩』と『左肩』の位置を示す天井、そして次にその真ん中のさらに上方に高くかすむ‥顔と頭の形をした天井‥‥‥‥‥‥
そうなのだ。 ここにある空間は間違いなく‥‥ ぼくが心の真ん中にずっと大切に守り続けて来た『ソラの空白』そのもの‥‥ なのだ。
次回へ続く