新人作家時代の素描 (6)

以前、集英社に保管されていた漫画原稿の大部分を返却していただいた際、ほとんどの作品はページを繰ってチェックはしたのですが、初期のものは原稿袋を確認しただけでそのままにしていました。
新人の頃の作品は絵は稚拙で不満足、ストーリーも若書きの独善的なものだったという印象が頭の中にあって(新人の頃は、脱稿する度に落ち込み後悔し、次こそは頑張ってみせるという事を繰り返していた)見直すことが辛かったからです。
「カゴメ」もそういう作品の一つでした。

ブログを始めて、複数の方から「カゴメ」についてのお問い合わせや感想をいただき(それも結構皆さん熱いものでした)少々戸惑い温度差を感じながら、それほど印象に残る作品だったのかと原稿を取り出し三十数年ぶりに目を通してみました。

何故このような作品を描いたのだろうという思いはありましたが、確かに「カゴメ」には「熱」を感じました。
とにかく表現したいという、漫画に対して熱い思いで取り組む新人の頃の自分がそこには居ました。
「カゴメ」のテーマはさしずめ「愛」でしょうか。「愛」は確かに全ての登場人物たちにあってそれが間違っていた。それぞれの愛し方がすれ違う事から悲劇が生まれる・・・。自分なりに物事に真面目に向き合おうという姿勢もはっきりうかがえます。

絵の表現で感じ思い出したのは、高校生の頃観て感化された横溝正史原作の角川映画「犬神家の一族」です。監督は市川崑。シリーズは「悪魔の手毬唄」「獄門島」・・・と続きますがその独特の演出、例えば血しぶきが美しいと感じる映像効果、多用されるフラッシュバック。悲劇の中の美とでもいうのでしょうか、そういうものを自分自身も手にいれようとしている形跡があります。
私自身の原風景的なものもうかがい知れて、幼いころ普段足を踏み入れない道でとある住宅の二階の窓が目に留まり、そこに人の気配を感じ取った時の心拍数の上がる感覚も思い出しました。

以上が自分なりに冷静な目で「カゴメ」を読み返してみた正直な感想です。

次回は「カゴメ」後編をお見せする予定です。

新人作家時代の素描 (5)

カゴメ 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


後編へ続く

この作品は1985年週刊ヤングジャンプ38号に掲載されたものです。

次回は「カゴメ」について解説してみたいと思います。
尚、後編は準備が整い次第お目にかけます。