リアリティー回想記 「土色画劇」

「土色画劇」は様々な題材を扱ったオムニバス短編ですが、掲載当初ヤングジャンプの他の作家さんに「案がもったいない」と忠告をいただきました。
確かに一つ一つを膨らませればもっと面白いお話になったもったいない案の使い方をしていたかもしれませんが、当時新人作家としては自己アピールをすることで精一杯だったんだと思います。
以下、各話簡単にコメントしていきます。

第一話「墓標」
最初のお話なので少々表現が派手めな話をもってきました。きのこ雲の描写を独特なものにしようと試みました。

第二話「背中」
作中にあるとおり、飛び降りた人物の意識は落下する瞬間まであるのではないかと思って描いてみました。

第三話「声」
内容より電話機の古さにビックリです。

第四話「自分嫌い」
心理的な夢の話です。自分ではお気に入りの作品です。夢の中で自分が死ぬイメージは人生の転機やステップアップの意味があると言われています。

第五話「夜歩く」
同名タイトルはジョン・ディクスン・カー(カー作品の原題はIt Walks by Night)や横溝正史の作品があります。いつか使ってみたい魅力的なタイトルだったので、そこから発想して描き上げました。ちょうどハレー彗星出現の年だったんですね。

以上は1986年ヤングジャンプ増刊号に掲載されました。
次回はいよいよリアリティー回想記の最終回、「仮面」です。

リアリティー回想記 「REALITY]

1980年代前半、読み切り短編「歪みの構図」でデビューした当時新人の私は、その使命として(大げさか・・・)本を読み映画を観て(特に邦画をよく観ましたが)新しい漫画表現を模索していました。
そんな時出会ったのが森田芳光監督の映画「家族ゲーム」(ATG配給)です。

映画館に足を運んだ私は冒頭からスクリーンにくぎ付けになりました。
その独特で才能あふれる演出は私を虜にしただけではなく、表現の可能性の扉をいくつも指し示してくれました。のちにビデオで発売された同タイトル(当時ビデオソフトは高価で14,800円?もした)を買い求め、擦り切れるほど繰り返し観たのを覚えています。

触発されて書き上げたのが、のちのシリーズ連載タイトルにもなった「REALITY]です。教室で起こる群像劇、ほとんどが会話だけで進行するという自分としては実験的な作品で、ジグソーパズルを組み合わせていくように構成していきました。
完成したネームはすぐに週刊ヤングジャンプ本誌(1984年39号)に掲載が決まりました。

ストーリーで、作中劇のラストと本当のラストシーンで現れる紙袋を被った女子学生。実は映画「家族ゲーム」のワンシーンから頂きました。
教室で先生が生徒たちにテストの答案を返却するシーンで、数秒ほど登場します。興味のある方は探してみてください。

蛇足ですが「REALITY]が週刊ヤングジャンプに掲載されてしばらくして、学生さん(高校生だったかな?)から文化祭関係で映像化する旨、許可を求める問い合わせが編集部に数件あったそうです。新人の身にはとても嬉しく、もちろん快諾しましたが、はたして映像化は実現したのでしょうか・・・

もう亡くなられてから何年も時が経ちましたが、この場を借りて森田芳光監督のご冥福をお祈りいたします。
次回は「土色画劇」について書きます。