悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (280)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百六十五

「 ぼくが‥この世界を拵(こしら)えてしまったということは、ここに到着する前の場所で『もう一人の自分の声』に指摘された。そしてそれがどうやら本当らしいことも、だんだん自覚するようになって‥きたさ‥‥‥ 」

ぼくが『ハラサキ山の魔物 ヒトデナシ』と名指ししたヤツに、逆にぼくこそが『魔神』であると非難された。
しかし、ぼくとしてはただ、『最愛の娘ソラの死』によって直面することとなった『喪失感や後悔を含めた逃れようのない様々な苦悩』を心に抱え込んだまま、『今日までなんとか生きて来た』という認識しかなかった。
だからぼくは反発し、正直に反論する。
「 この世界は確かに、今のぼくの心の状態が反映されているものなのかも知れないが、その場を赤く血で染め上げているのは『ヒトデナシ』の所業(しょぎょう)によるものだろう。おまえは自分のことを、『ぼくのシナリオ通りに演出するぼくのパートナー』だと語っていたが、それがどうにも納得がいかない‥ 」 そう言ってぼくは改めてヤツを睨(にら)みつけようとしたが、セナの姿をしたヤツにそれができず、複雑な気持ちでただ斜(はす)に構えた。
「 さっき話した『もう一人の自分の声』は、おまえのことをこうも言っていた。おまえは、ぼくの心に今まで存在していなかった‥突然降って湧いた様に現れて知らぬ間にぼくの心に紛れ込み、居座(いすわ)ってしまった『謎の異物』だと‥‥ 」

「 ほう‥‥ 」 ヤツが一言そう漏らし、胸の前で両腕を組んだ。小学二年生の高木セナの‥、堂(どう)に入(い)った腕組み姿だった。
危うく見とれてしまいそうになるのを堪(こら)え、ぼくは語気を強めて言葉を続けた。
「 そんな‥『異物』として紛れ込んだおまえが、どういう理由から、ぼくの『パートナー』を語る?! それに、おまえの手でこの世界を赤く染めて置きながら、どうして平気でぼくのことを『魔神』呼ばわりしてみせる??! 」

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (279)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百六十四

「 ‥おまえは一体‥ 何者なんだ? なぜここにいる? 」 ついついそんな問いが、ぼくの口から飛び出した。

「 ‥神‥ なのか?‥‥ 」

ぼくを見ていた『高木セナの顔』の表情に、はっきりとした侮蔑(ぶべつ)の色が浮かんだ。
「 ‥‥随分と短絡的な物言いをするものだな。さっきまで、おまえはオレを、「ハラサキ山の魔物』と称してくれていたはずだが? 」

確かにヤツの言う通りだった。しかし、ここで黙り込むのも癪(しゃく)だったので、出まかせの反論が、またしてもついつい口をついて出た。
「 ぼくにとっては、『神』も『魔物』も同じ『人知を超えた存在』としての‥同義(どうぎ)なんだ 」

「 ククッ‥ クククク クククㇰㇰ- 」
「 おッ! おい!? 」
突然、ヤツが笑い出したのだ。それも可愛く、小学二年生の幼いセナの声音(こわね)で。
ぼくは、不意打ちを食らったみたいに狼狽(うろた)えてしまった。

「 本当に、都合の良い物言いだこと‥ 」
「 止めないか! セナの声で話すんじゃない! ぼくを揶揄(からか)っているのか!? 」

「 いいやぁ! 揶揄ってなどいないさ! 」 厳しい言葉とともに、声が元に戻った。揶揄っていると言うより、ぼくに少々腹を立てているのが、分った。

「 オレを『神』とか『魔物』呼ばわりするのなら、おまえだってこんな『イカれた世界』を拵(こしら)えちまった張本人(ちょうほんにん)じゃないか! おまえこそが『魔神』の呼び名に相応(ふさわ)しいぜ! 」

次回へ続く