悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (284)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百六十九

嫌な予感が‥した。

そもそも‥ この遠足は、『自分自身がシナリオを描いた』ということで今はぼくも納得しているけれど、揺るぎなくはっきりと自覚できているわけではない。
事態が進展するごとに、「 ああ、なるほど‥ 」と腑(ふ)に落ちる程度のことなのである。
だからこの先、どんな結末がぼくを待ち受けているかなど、皆目(かいもく)見当もつかない‥‥‥

ぼくの『精神世界の捻(ね)じれや歪(ゆが)み』が『原因』で、やつはここに漂着した。
ここというのは、その『原因』の『結果』としてぼくが拵(こしら)えてしまった世界であるわけだが、ヤツがパートナーとして介入し事態を進行させることで、本当にこの『気持ちの悪い世界』の収拾(しゅうしゅう)がつけられるのだろうか? そして実際そうなった時、そもそもの『原因』であるぼくの精神世界は、いったいどうなるのだろうか?‥‥‥‥‥


「 ふん‥ しばらく黙り込んだままで、何を考えてる? 」
ぼくの様子を上目づかいで窺(うかが)っていた『葉子先生の顔』が言った。

「 い‥いや。何でもない 」

「 ふん! どうせ、オレの話をどこまで信用していいのか、考えてたんだろ? 」

「 いや!違うよ! 」 図星である。ぼくは慌てた。
ヤツには隠し事はできない。

「 ふん‥ おまえがオレを信用しようが信用しまいが、同じことだ。ここまで来たら、もはやおまえに選択肢(せんたくし)はない。だが心配は無用だ。パートナーとして、オレが最後まで付き合ってやるよ 」

「 ‥‥最後‥まで? 」 その言葉が、ぼくの心に敏感に響いていた。

「 ああ、最後までだ。 もうすぐ全ての準備が整うはずさ 」
葉子先生の顔をしたヤツが、ニタリと笑った。

次回へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (283)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百六十八

「 つまり‥ 娘を失ってからのぼく自身の心の有り様(ありよう)が‥‥ 結果的におまえを呼び寄せてしまった‥ということか? 」 ぼくは、呟く様な声でヤツに問い質した。

「 その通りだ。何も自(みずか)ら好き好(この)んで、ここにこうしているわけではない 」 葉子先生の顔が、何の感慨もなく答えた。

「 だったら、なぜ干渉(かんしょう)する? なぜ『パートナー』を名乗り、協力者面(づら)をしている?? 」

「 ふん 」 ヤツは人を小馬鹿(こばか)にした一言を発すると、こう続けた。
「 オレやオレと同じ存在達は、引き寄せられたとしても‥、決して自らの意志でそうしているわけではないのだ。次元の『変形や偏(かたよ)り』から生じるエネルギー差異の流れに乗じて流され、原因となっている地点に漂着したに過ぎない。さらには、その原因が消滅し『変形や偏り』が解消されない限り、流れ着いた地点に拘束(こうそく)され、身動きが取れない状態がいつまでも続くのだ 」

「 ‥‥それで‥ 今おまえがやっていることは、ぼくの『精神世界』の捻(ね)じれや歪(ゆが)みを是正(ぜせい)して、次元の『変形や偏り』となっている原因を消滅させようとしている‥ と言うことか? 」

「 ほう‥ 理解が速いじゃないか 」 葉子先生の顔が、まるで『お利口な教え子』を褒(ほ)めそやす時みたいに微笑んでいた。
「 漂う存在のオレ達にとって、漂着先の事情に介入し、原因となるものを取り除くことだけが、再(ふたた)び『漂う自由』を取り戻すことのできる唯一(ゆいいつ)の方法なんだ。分かったか? 」

「 ‥分かった‥‥ 」 ぼくはそう答えた。
しかし、次元の『変形や偏り』の原因となっているものを取り除くとか、消滅させるとは‥‥、ぼくにとってそれは一体‥どんな意味を持っているのか‥‥‥‥ 図りかねていた。
ヤツは、ぼくのパートナーだと言った。ぼくが描いたシナリオを、形にする手伝いをしてるとも言った。本当にそんな方法が、『ぼくの精神世界に根ざしているはずの原因』を排除(はいじょ)したり、もしくは消滅させることに繋(つな)がって行くのか?‥‥‥‥‥‥‥

嫌な予感が‥した。

次回へ続く