木霊 continue (3)

「木霊」で自分のお気に入りのシーンは、11P~14Pのトリッキーなページ展開です。
後に、映画「羊たちの沈黙」(1991年、第64回アカデミー賞受賞作)のクライマックスで同じ映像トリックが使われていて、自分もつくづく映像を創る側の人間なんだなぁと一人悦に入っていたのを覚えています。漫画を描き出したのも、もしかしたら映画を絵とコマ割りで表現したかったのかもしれません。

「木霊」のテレビ映像化の話をいただいた時、自分の漫画が実写化されることが人一倍うれしかったのはそういう思いがあったからだと思います。
それに何よりの喜びだったのは、送られてきた台本のスタッフ表を見た時でした。

1998年、関西テレビ放送制作「学校の怪談G」の約30分尺の一編「木霊」は、脚本が高橋洋氏、監督に黒沢清氏の名前が記されてありました。

高橋洋氏は、映画「女優霊」(1996年)、「リング」(1998年)の脚本を手掛けた方で、オリジナルビデオ(後に映画化される)「呪怨」(1999年)、「呪怨2」(2000年)の監修もされています。言わば「Jホラー」の担い手の一人、皆さんご存知の通り「リング」「呪怨」は、後にハリウッドでリメイクされました。
「女優霊」「リング」はまさにホラーの教科書で、いったい何回見直したでしょうか。

黒沢清監督は、映画「CURE」(1997年)、「回路」(2001年)などの作品を撮られていて、最新作「散歩する侵略者」は先日公開されたばかりです。私も「CURE」からの大ファンです。
何度も見直そうと「CURE」のビデオを買い、最近発売されたDVDももちろん買い求めました。「cure」の意味を辞書で引きなおした時、「治し」と同時に「司祭」の意味があることを知り、唸り声を上げた記憶があります。
今でも「CURE」は日本のホラー映画の最高傑作だと信じています。

両氏に「木霊」を映像化していただいたことは、自身の作家人生でも最良の出来事の一つでした。

初見は放送時で、テレビに映し出された映像を見てやはり感激しました。
私の原作にはない細かなニュアンスがさりげなく盛り込まれ、全編独特の空気が漂います。教室のドアにかかった揺れるカーテン、床に残った黒い人型のシミ、廊下を包んでいく邪悪な闇。血の赤がなく、まるで恐怖が色彩を奪っていくような「絵」でした。

ありがとうございました。
「木霊」を指名していただいたスタッフの皆さん、高橋洋氏、黒沢清氏、両氏にこの場を借りて感謝の言葉をお伝えしたいと思います。

次回は「木霊」の続編について書いていきます。

木霊 continue (2)

「木霊」のストーリーです。放課後の木造校舎で男女五人の生徒が超能力の検証実験を始めます。その最中、嵐の中謎の存在が校舎内に侵入し、彼らを含め学校に残っていた教師らが一人、また一人とその餌食となっていくのです。

解説ですが、開始4ページ目で校舎全体の地図を提示する事で、読者にこれから舞台となる空間全体の把握をしていただきます。
地図は最も完成された情報ツールの一つです。RPGなどのマップで、これから始まる冒険に胸を躍らせる方もいらっしゃるでしょう。地図は容易に読者をその世界に引き込んでくれます。
後に「地図シリーズ」という地図が主役的な存在となるいくつかのストーリーを思い立ち、その一作目「彼女の地図」という中編を増刊号に掲載しましたが、その時も地図を効果的に使う事ができました。

話は戻ります。主人公「和美」は能力(遠感)の持ち主です。彼女は、離れた場所に居ても他の人物の存在を感じ取ることができ、その居場所を特定できます。彼女の頭の中のイメージを、地図の部分部分の光の点として表示してみました。

その光の点、実は映画「エイリアン」(1979年リドリー・スコット監督作品)の1シーンの投影です。映画中盤チェストバスターがケインの胸から飛び出し巨大な宇宙貨物船ノストロモ号の船内に姿を消し、やがて巨大に成長したエイリアン(成体・通称ビッグチャップ)がダクト(通風口)内に侵入したとの情報がもたらされます。船長ダラスは火炎放射器を手にダクト内の捜索に向かい、ランバートが見守る動体探知機のモニター画面の表示する信号(光の点)が、ダラスに接近するエイリアンを知らせるのです。
画面上、点滅し移動する光の点がダラスの危機を予感させ緊張感を高めていきます。
つまりモニター画面の信号を、和美の地図上の光の点のイメージに置き換えたわけです。木造校舎全体が言わばノストロモ号船内といったところでしょうか。

これらのアイデアが、たった20ページの短編をテンポがあり娯楽性のあるサスペンスホラーにしてくれたと思います。
ちなみに校舎に侵入した謎の存在の正体は最後まで明かされず(実は決めてなかった)、タイトルも完成後にいくつかの候補から編集さんのアイデアで「木霊」に決まった次第です。

最後に電子書籍化された際、印刷が薄くなり、「地図上の光の点」が不鮮明になっていたのが残念です。これからご覧になる方は、その点を留意してお読みくださるよう願います。

次回は「木霊」のテレビ(実写)ドラマ化の事を書いてみようと思います。