第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百六十六
「 主体はおまえだ。おまえの精神が抱える破綻寸前(はたんすんぜん)の歪(ゆが)みが、オレをここまで引き寄せた‥‥ 」 腕組みをしたままのヤツが言った。
「 引き寄せた‥だって? 」
「 そうだ 」
「 なぜそうなる? ぼくは今までおまえの存在など知らなかったし、おまえを望んだり必要としたりなど考えつくはずもない‥‥‥ 」
「 ふん 」高木セナの顔をしたヤツが、鼻で笑った。「 オレも同じだ。おまえに引き寄せられるまで、おまえのことなど何一つ知らなかったさ 」
「 だったら!なぜだ? なぜおまえは、ぼくの心に紛れ込み、居座(いすわ)った?? 」
「 ‥それは な‥ 」 そう言いかけていきなり、ヤツの顔や体全部の輪郭がぼやけ出した。
まただ。また例の『モーフィング現象』が始まったのだ。高木セナの姿がねじれる様に流動変化し、あっと言う間に新たな大きさと形の別の姿が出現していた。
「 何も知らないヒカリくんのために、先生がちゃんと説明してあげましょう 」
目の前に現れたのは誰あろう、この遠足にクラス担任としてぼくらを引率して来た『葉子先生』その人だった。
「 おいおい、今度は葉子先生なのか。だがな‥ 本当の葉子先生はそんな容姿はしていない。おまえが今成り済ましたのは、ソラが生前しばらく診てもらっていた病院の、女医『先生』の姿なんだよ 」
「 そんなこと知っています! これも『あなたが書いたシナリオ』に則(そく)した表現じゃないの!今更自覚してないなんて言わせないわよ!! 」
「 ‥‥わかった。わかったから、その声音(こわね)と言葉遣いだけでも止めてくれないか? 」
ヤツはぼくをからかってる風でいて、明らかに腹を立てていた。ぼくは、ヤツの気を静めるつもりで下手にまわり、ささやかな譲歩を求めた。
「 ふん‥ 何も知らないおまえのために、オレがなぜここにこうしているのかを説明してやろう 」
ヤツの声と言葉遣いが元に戻った。こんな大人になってから、『先生』と呼ばれる頭の上がらない女性に、面と向かって叱られるという『経験したくないシチュエーション』は、いくらか軽減された。
「 おまえには想像もできないだろうが‥‥ 例えば宇宙の、星と星との間の何も見当たらないような空間でも、実際には様々なものが漂うみたいに存在していて‥‥ その存在が、後々(のちのち)の宇宙の進化や退行などの決定的な変化に深くかかわる『鍵』となりうるものであるなどと‥‥ 誰が予測できようか‥‥‥‥ 」 ヤツが語り始めた。
次回へ続く