悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (274)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百五十九

「 ヒカリ‥ おまえが『いつものオレらしくない‥』なんて思ったのも当然のことだろう 」
しばらくして、突然モリオが喋(しゃべ)り出した。やはり、感情の起伏(きふく)が一切感じられない物言いだった。

「 ‥どうしてだい? 」 ぼくも出来るだけ冷静沈着を装い、質問した。
「 だってオレたちはみんな、とんでもないことに巻き込まれている最中なんだぜ。いつも通りでいろという方がおかしいよ‥‥ 」

「 確かに‥ それはそうなんだけど‥‥‥‥ 」 ぼくは、そう言いながらゆっくりと背中からリュックを下し、中から『例のもの』を取り出した。セナのものだと信じて仕舞っておいた、左右揃った少女の華奢(きゃしゃ)な両腕である。
「 ‥ところで、先にこれのことなんだけど‥‥ 」 ぼくはその二本を、一本づつ自分の両手に持って、モリオの方に示した。 「 どうもぼくの早とちりで、こいつは『高木セナの腕』ではなかったみたいだ 」
「 ‥‥‥へぇぇ‥ 」 モリオが、台本でも下読みしているみたいな声を出した。「 どうしてそう言えるんだ? ついさっきまで、あんなにおろおろしてたくせに‥‥ 」
「 ああ、その通りだ。おろおろし過ぎて、気が動転してしまって、簡単なことを見逃(みのが)してたんだよ 」 そう言ってぼくは、手にしている両腕の『右腕』の方を、モリオが良く見えるように高く掲げた。

「 ほら、こいつを見てくれ! この右腕の外側には、葉子先生が応急処置で貼(は)ってくれた『大きな救急絆創膏(ばんそうこう)』がどこにも見当たらないし、たとえ絆創膏が取れてしまっていたとしても、残っていて当然の『真っ直ぐの長い切り傷』が一切(いっさい)ないんだよ! 」

次回へ続く

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