第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百四十三
「 どうした?? 何か見つけたのかい? 」
こちらに背を向けたまま通路の壁を凝視しているセナに、ぼくは然(さ)したる期待もなく声を掛けた。どうせいつかみたいに、でかい毛虫でも発見してしまって、思わず奇声を上げたのだと考えたからだ。
「 ‥‥‥‥これ‥ 」
セナは静かに、飽くまでも静かにゆっくりと、彼女の前方にある壁の一部分を指差した。
「 え‥ 何? 」
ぼくは、セナがまったく浮(うわ)ついた様子で無いことをにわかに感じ取り、彼女の指し示す壁に『毛虫以外の何』があるのかを確かめようと、一歩二歩と足を踏み出した。
「 これを‥見て 」
セナは明らかに、壁にスタンプされた数多(あまた)の『赤い花』の、その中のたった一つを指差していた。
「 ‥‥ああ。そいつが、どうかしたのかい? 」 ぼくの感想は言葉の通りだった。まったくピンと来ない。
「 だったら、次はこれ 」 そう言って彼女は、差したままの指をそのまま右横に十数センチだけスライドさせ、真横にあった別の『赤い花』を指差した。
「 ??? はあ‥‥‥ 」 相変わらず、まったくピンと来ていないぼく。
そんなぼくを尻目(しりめ)に、「 そして、その次はこれ!」「 そんでもって、そのまた次はこれ!」と言った調子でセナは指を動かして行き、二番目の『赤い花』のやはり十数センチ右真横にあった『赤い花』と、さらにそれの十数センチ右真横にあった『赤い花』を、立て続けに指し示して行った。
「 あ!」
ぼくはそこまで来て初めて、その辺りの壁の様相が他の場所とは随分違っていることに気がついた。
スタンプされた『赤い花』の数が極端に疎(まば)らで、さらにはセナが連続して指し示して行った四つの『赤い花』が、どう考えても意図的に、ほぼ横一列に等間隔で並んでいたのだ。
「 こ‥ これは一体??‥‥ 」
「 ううんん、まだ終わりじゃなくてぇぇ‥まだまだ!」
セナの指差しには、どうやらまだ続きがあったのだ。やはり右横へと彼女の指は動いて行ったが、今度は真横ではなく、花の大きさ一つ分高い位置にある五番目の『赤い花』。そしてその次が右横は変わらず、花の大きさ半分ほど低い位置にある六番目の『赤い花』。七番目の『赤い花』は高さは変わらずその右真横で‥‥、八番目はまた花の大きさ半分ほど低い右横にあって、九番目に指し示された『赤い花』は、八番目よりさらに花の大きさ半分ほど低い右横に存在した。
「 いっ 意味があるんだな!この並び方!!そうなんだろ?!」 ぼくはもどかしくなって、セナの考察が導き出す結論を催促した。
今までずっと背中を向けていたセナは、ぼくの問いかけにゆっくりと振り向いて‥‥、こう言った。
「 だからぁぁ‥ シ・シ・シ・シ・レド・ドシ・ラァ よ!」
次回へ続く