第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百三十三
「 ぼくの‥ 今の心全体の有様(ありさま)がこの‥ 遠足‥‥‥‥ 」
頭の中に吐き捨てる様に響いたやつの言葉を、ぼくは無意識の内に反芻(はんすう)していた。
そうだ。おまえが世の中に対して抱いてきた様々な感情や情動。たとえば『嫉妬(しっと)』‥『軽蔑』『失望』『不信』‥『憎悪(ぞうお)』『怒り』‥‥‥‥‥
おまえの心の真ん中にある『ソラの空白』の‥その周辺に集まって来てしまったそうした有りと有らゆる感情の中の『邪念』が、この遠足世界を構築していく上でのファクター(因子)となっていったんだ。
そんなに‥ この遠足は、ぼく自身の邪念 邪心で汚(けが)れた世界だったのか?? ぼくには到底(とうてい)‥そうとは思えない‥‥
ぼくは、この遠足が好きだった。途中で中止にしたくはなかったし、いくつものアクシデントさえ何とか乗り越えてしまえると‥考えてた‥‥‥‥
おまえが、おまえの歪(いびつ)極(きわ)まりない心の、すぐにもどうにかなりそうだった『ストレス』に動かされて拵(こしら)えてしまった世界なんだろうからなあ。おまえ自身にはストレス発散の意味があるんだろうよ。
まったく、どれだけの人間が『この気持ちの悪い世界』を構築するために血を流していることか‥‥
おまえが『巨大迷路廃墟』と呼んでいるこの場所の外壁に、まるで処刑されたみたいに腹を裂かれて逆さまに吊るされた人達だけでも、今はもう数十人は下(くだ)るまい。
なっ、何だって!? 廃墟の外壁に吊るされている人間は、今こうしている間にも、増え続けているというのか?!
ああ。どうやらこの場所の外壁一周全部を、腹から内臓をはみ出させた死体で、隙間(すきま)なく埋めつくしたいらしい。おまえが『見知っている人々』の『変わり果てた姿』でな。
ぼくが見知っている人々だって??? そんなばかな!! 最初に吊るされた水崎先生と、次に吊るされた教頭先生はともかく、その後に吊るされた若い男女の二人は、このハルサキ山に車で近づこうとした通りすがりの人達だったはずだ!!
おいおい。おれが嘘をついていると思うんなら、今すぐここから外に出て、おまえのその目で確かめてみるといいさ。
何なら‥ 誰も彼も容赦なく人の腹を裂いて逆さまに吊るしている張本人(ちょうほんにん)で、おまえが『ヒトデナシ』と呼んでいる『ハラサキ山に棲(す)む魔物』にでも、直接聞いてみるかい?
次回へ続く