第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百二十五
「 まったく‥ 呆(あき)れ果てたヤツだ‥‥ 」
「え?」
突然、声が聞こえた。ぼくは思わず首をあちこち動かして、声の主を捜してしまった。だが、ぼく達が今歩いている直線通路には、もちろんぼく達以外の誰の姿も見当たらなかった。
「どうかしたの? ヒカリさん」 セナが声を掛けてくる。
「‥‥‥いや‥ 間違いだ。気のせいだった‥‥みたいだ」 ぼくはセナに答えた。しかし、その言葉が終わるか終わらないかの内に、また声が聞こえた。
「 いつまで誤魔化(ごまか)し続ける‥つもりなんだい? 」
「うっ!」 ぼくは目を大きく見開いて、立ち止まっていた。
声は、ぼくの頭の中で響いた気がしたのだ。
「ヒカリさん?」 急に立ち止まったぼくに驚いてやはり足を止めたセナが、不審げにぼくを見た。
「なっ なんでもない。‥ごめん、進もう」 ぼくは飛び上がるほど驚いた。なぜなら、ぼくの口が勝手に動き、勝手に言葉を発していたからだ。
そしてさらには、ぼくの体全部が勝手に動き出し、元通りセナの手を引いて、何事も無かった様に歩き出したではないか!?
ぼくはパニックになった。顔をくしゃくしゃにして、何度も何度も絶叫していた。しかし実際は、そんなことは一ミリも起こらず、何食わぬ顔をして平然とセナと手を繋ぎ、前進を再開している自分がそこにいたのだった!!
「ふふ‥ 落ち着けよ。そんなに取り乱すほどのことじゃない」
再(ふたた)び、いや三度(みたび)声が聞こえた。やはり声は、ぼくの頭の中だけに響いていた。
「おれとおまえは一心同体。お前は俺の存在などあまり顧(かえり)みることは無かっただろうが、おれはいつだっておまえと一緒にいたんだぜ‥‥」
やはりそうか!この声の主は例の『もう一人の自分』で、ぼくが恐れていたことが本当に起こってしまったのだ!
ああ‥ ぼくは『こいつ』に人格を乗っ取られてしまったらしい!
「おいおい、落ち着けって言ったろ。繰り返すが、おれとおまえはずっとひとつなんだ。おまえは今まででも、おまえの都合のいい時だけ、おれを平気で利用してきたじゃないか。それにそもそもおれとおまえの関係は、人格を乗っ取られただの、乗っ取られなかっただのと‥そういう単純明快(たんじゅんめいかい)な話ではないんだよ」
うるさい! 黙れ!黙れ! ぼくの体を返してくれ!!
「うるさいのはおまえの方だろうが! 本当はもう何もかも知っているくせに、何を知らない振りをし続けてるんだよ? 何が‥今度頭痛が始まったら我慢して思い出してみる‥だ!よく言うぜ! そもそもあの頭痛自体は、おまえがおまえ自身を誤魔化すためにわざわざ創り出した、下手(へた)くそな口実みたいなもんじゃないか!!」
次回へ続く