悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (267)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百二十二

ぼくとセナは、巨大迷路廃墟の通路を前進していた。

そもそも、今いるここが、巨大迷路廃墟の本当の内部であるかどうかも疑問だったし、このまま歩き続けた先に、ちゃんと目的の場所が存在しているかどうかにも疑問符が付く前進だった。

歩を進めながらもぼくが何か考え事をしているのを知ってか知らでか、手を繋いでいるセナはさっきからずっと黙り込んでいる。
通過していく迷路の仕切り壁に急に思い出したみたいに現れる、切断した腕の断面で押された例の『血のスタンプ』は、ある場所では壁を埋め尽くさんばかりの圧倒的な光景で、途中の通路で出会った出血し過ぎてふらふらになったアラタや、自分の血だまりに倒れていたランちゃんのように、一体どれだけの人間の血が流されたのか想像するだに恐ろしかった。
そして、さらに恐ろしかったのは、その『血のスタンプ』群(ぐん)がますます、咲き乱れた『赤いばらの花』に見えて仕方なかったことだ。仕切り壁のあらゆる場所に『血のスタンプ』が押されている意味に朧気(おぼろげ)ながら思い至った時‥‥、ぼくはぼく自身に、一つの『決意』が必要であることを悟った‥‥‥‥‥‥‥

「ぼくには‥‥ どうやら試練みたいなものが‥必要らしい‥‥」
「えっ?」
ぼくとセナは、同時に立ち止まり、互いの顔を見遣った。

「ど‥ どういうこと?」 セナが問いかけた。
ぼくは彼女と繋いでいた手を放し、その指で、まるで拳銃をこめかみに当てるみたいに、自分自身の頭を指差した。
そんなぼくの一挙手一投足を、セナは真剣な眼差しで見ていた。

「頭痛と‥‥、頭が割れてしまいそうなあの痛みと‥、闘ってみようと思うんだ‥‥」 ぼくは言った。

今回の遠足で、耐え難い頭痛にはすでに何度か襲われていた。確か、セナがいっしょの時にもあったはずだ。
頭痛は決まって、見たり聞いたり経験したことで、心に何か引っ掛かりを感じて、それが何なのか思い出せそうな時、思い出してみようと試みた時に起こった。まるで‥ 「 思い出すな!」「 思い出してはいけない!」 ‥と警告を発してでもいる様なタイミングの痛みだった。

「ヒトデナシと出会う前に知っておいた方がいい、重要な記憶みたいなものが、あの頭痛の向こうに隠れていそうな気がするんだ。だから、今度頭痛が始まることがあったら、痛みを我慢して、徹底的に思い出してみようと考えてる」

次回へ続く

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