第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百十二
「うじょう‥しんな‥ ごぎたいば‥‥ うがべじ‥さぜぜ ぐ ぎだだぎまが‥じだ‥‥」
「ごぎゅぐごぐ‥ がぎばどうごじいばじだ‥‥ 」
幾(いく)種類かの『摩擦音』が抑揚を意識しながら組み合わされた、旋律的な連なりのような言葉?だった。
セナからの『若先生の情報』を念頭に置き、ノイズを除去するみたいに一言一言適切なものを当て嵌(は)めていくと‥‥、こういうことになる。
「お嬢 さんの‥ ご遺体は‥‥ お返し‥させて いただきま‥した‥‥」
「ご協力‥ ありがとうございました‥‥ 」
今まで『風太郎先生』だと信じていた男が、病院の『若先生』であった。彼は、小学二年生の子供の姿をしているぼくとセナが、娘『ソラ』の遺体を提供した両親であるという事実をちゃんと知っていた。知っていたからこそ、『あんな挨拶』をして行ったのだ。
「‥‥いつからだ?」ぼくは誰に問いかけるでもなく言った。「いつからこう‥なった?」
風太郎先生は、最初から若先生の外見をしていたのかも知れないが、体がバラバラになって死んで‥、元通り(?)に生き返ってから、中身まで若先生になったのか?
だったら‥生き返った風太郎先生が道案内をして、ここ『巨大迷路の廃墟』まで『ツジウラ ソノ』を連れて来た行為に、意味が生まれて来る気がした。
ぼく達がその二人を追ってこの廃墟に侵入した時、最初に出くわした『読経(どきょう)が流れる暗闇の異空間』。通夜を経て、やがて葬儀が行われるのだろうという『暗示めいた体験』だった‥‥‥‥‥‥
「‥空(から)の棺(ひつぎ)に遺体が収まってこそ‥‥、葬儀が執(と)り行える」
「え? どういう意味?」 黙って傍らで聞いていたセナが、さすがに質問する。
「あっ ああ‥‥ 風太郎先生ではなくなった若先生が、去り際(ぎわ)に言ったことが本当に、『ソラの遺体を返した時のお礼の言葉』だったとしたら‥‥‥‥‥ 」
「‥だったん‥なら?」セナが身を乗り出す。思わず目を輝かしてぼくを見つめてくるセナを、ぼくも真っすぐ見つめ返していた。そして言った。
「返された遺体はやっぱり‥‥、『ツジウラ ソノ』だったんじゃないかと、思ったんだ」
「えっ?」セナの目が真ん丸になった。かまわずぼくは続け、一気に捲(まく)し立てた。
「この巨大迷路の廃墟の中で誰かが‥‥、葬儀を行おうと待っているんだという‥気配がする。だからツジウラ ソノはここに連れて来られ、通夜の間(あいだ)ずっと空(から)だった棺(ひつぎ)の中に収められたのかも知れない。そしてもし、行われる葬儀が『ソラのもの』だったとしたら、ツジウラ ソノがやっぱり『ソラ』だった、ということに、なりはしないかい?!」
次回へ続く