我為すことことごとくこれ蛇足也 其の四

「ちいさい秋みつけた」のは‥‥誰ですか? 前編

誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが みつけた
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた
めかくし鬼さん 手のなる方へ
すましたお耳に かすかにしみた
呼んでる口笛 もずの声
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた

誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが みつけた
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた
お部屋は北向き くもりのガラス
うつろな目の色 とかしたミルク
わずかなすきから 秋の風
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた

誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが みつけた
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた
むかしのむかしの風見の鳥の
ぼやけたとさかに はぜの葉ひとつ
はぜの葉あかくて 入日色
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた


私は度々‥物語の中で、歌の歌詞を引用します。
引用しているのは大体が童謡や唱歌なのですが、そのそれぞれの歌の歌詞にインスピレーションを掻き立てられ、イメージが豊かに広がっていくことがよくあるからです。

今回、冒頭に記した歌は、言わずと知れた童謡『ちいさい秋見つけた』の三番までの歌詞ですが、この歌も私自身独特の感想を持っていて、いつか使わせていただこうと考えていたものの一つでした。
作詞はサトウハチロー、作曲は中田喜直。何気ない小さな秋の気配をひとつ‥ふたつと描写していく、どこか物悲しい初秋の歌なのです。

私は子供の頃、この歌をテレビ(おそらく『みんなのうた』)で見聞きしたり、小学校の音楽の時間に歌った覚えがありますが、そうやって耳にする度に感じていたのは、どことなく醸し出されてくる『陰鬱(いんうつ)さ』でした。当時子供だった私はもしかしたら、全てに解放的だった夏休みが終わりを告げ、とうとう始ってしまった二学期への落胆の気持ちをこの曲に当てこすって、そう感じていたのかも知れません。
ただ、大人になってから、大人の感性で改めてこの歌詞をなぞってみても、子供の頃に感じていた『陰鬱』な印象は消えず、むしろやはりそうだったと再認識してしまったのです。

中編へ続く

悪夢十夜~獏印百味魘夢丸~ (216)

第四夜〇遠足 ヒトデナシのいる風景 その百一

五メートルほどの直線通路から、咄嗟(とっさ)の判断で、左側に見つけた分岐通路に入り、さらにその奥にある曲がり角まで行って身を隠せれば良かったのだが‥、ぼくと高木セナにはそこまでの時間は無かった。入ったすぐの場所で仕切り壁にへばりつき、壁の一部である様に一切の動きを止めてじっとしている。やれたのはそこまでだった。
そして‥、直線通路に現れた『誰かたち』の気配が、こちらにだんだんと近づいて来る。彼らが『分岐』に差し掛かった時にこちらの通路へ顔を向けたら、当然ぼく達の姿は丸見えのはずだ‥‥‥

ぼくは仕切り壁に片頬(かたほほ)を押し付けた横向きの顔で、今曲がって来たばかりの分岐入口に目を向け、瞬(まばた)きもせず『直線通路側の四角く切り取られた視界』を注視していた。

カサ‥ サッ サクササ‥サク ザササ‥サククッ‥サク
やはり複数の足音だ。やがて、三、四人の重なった人影が、視界を横切り始めた。
予想はしていたが、彼らはみんな小学生だ。判別はできないが、ここに来て散り散りになっているクラスメートに違いなかった。
いや! 大人だ! 大人もいる! 子供達のすぐ後ろから、つき添う様に、見覚えのある輪郭が視界に入って来た。
そうして一秒、二秒、三秒、四秒、五秒をかけて、全員がぼくの視界を横切って消えていった。

ぼくは、いつの間にか止めていた呼吸を再開し、安堵のため息をついた。彼らの誰もがこちらに顔を向けることなく、通り過ぎて行ってくれた。すぐ横に居た高木セナからも、長い息が吐き出される音が聞こえた。
ぼくは頭の中に残った『五秒間の視界映像』を反芻(はんすう)してみる。通過して行ったのは全部で五人で、男子一人に女子が三人と、『あの先生』が一人だった。子供達に『腕が切れている子』や『切れた腕を持っている子』はいなかった様に思う。問題は、一番後ろを歩いていた『あの先生』で、右手に‥何か光る金属の様な物‥を握っていた気がする。途中置き去りにして来たアラタやランちゃんの姿が目に浮かび、嫌な予感がした。
「風太郎先生‥‥ みんなに何かしようと‥してる?」ぼくの口から独り言が漏れた。
「そっ そうだよね。一番後ろを歩いてたの‥ 風太郎先生だったよね」透かさず、高木セナがぼくの言葉を拾って確認した。
「‥‥少し戻ることになるけど‥‥ しばらく彼らの後をつけてみようか‥」ぼくは提案した。高木セナは、「うん」と頷いた。

彼らを見失わないうちにと、ぼくと高木セナはすぐさま行動を開始した。分岐通路から直線通路まで戻るべく、二人して覗き込む様にしながら『彼らが歩いて行った方向』である右に、角を曲がった。

「え?!!」

ぼくと高木セナは、凍りつく様に立ち止まった。
角を曲がって出た直線通路の僅か二メートル前のすぐそこに『風太郎先生』が、まるでぼく達を待っていたみたいに、背を向けたまま黙って立っていた。

次回へ続く