第一夜〇タイムカプセルの夜 その三
えっ‥‥マジで?‥‥‥‥
木村、高橋と山本、かおり、委員長が、それぞれ手にしていたスコップやシャベルを放り出し、グラウンド中央の巨大な穴に向かって一斉に走り出した。
俺もみんなの一番後ろから、釣られるように近づいていった。
穴の縁(ふち)に腰を浮かせる様に立ち、恐る恐る首を伸ばして覗き込む。
人力では到底及ばないであろう機械で掘られた穴は、横に大きいだけではなく、かなりの深さにまで達していた。底の方は暗くてよく見えない。
「いったいどこにあるのよ?」
「暗くて何も見えやしないじゃない‥」
高橋と山本が透かさずツッコミを入れた。
ヘルメットを被ったままショベルカーから降りて来た小川が、何処から持ち出してきたのかフラッシュライトを二個、山崎と木村に渡した。
「気が利くじゃないか」山崎は今夜何度目かの賛辞を小川に送った。
パチリパチリとスイッチが入り、四、五メートルの深さはある暗闇の底にふたつの光の環(わ)が交錯した。
「‥‥どこに‥あんだよ?タイムカプセル」俺は山崎に問いただした。
山崎の持つライトの光が、ある箇所で留まった。
「‥そこだ。よーく見てくれ」
一同、ライトの光の環の中に目を凝らす。木村が、持っているもう一つのライトでその周囲を照らし、空間を立体的なものに見せた。
「‥‥‥‥‥」
「確かに‥‥あるわね‥あそこだけキレイに平らだわ。大きな箱の‥・上の部分に見える」委員長が言った。
「まかせろ!」木村がライトを俺に渡し、放り出していたシャベルを拾って戻って来た。照らしといてくれよと言い置いて、一歩一歩落ちないように足場を作りながら、穴の底まで下りて行く。
委員長が指摘した平らなところにたどり着くと、その周りにシャベルを立て、大きな体に物を言わせて物凄い勢いで掘り始めた。その動きはまるで、時間短縮のために早送りしている映像の様だった。
「木村くん、すごーい!」高橋と山本が揃って声を上げた。
あっという間だった。巨大な箱の、恐らくはまだその一部分‥が姿を現した。
「こりゃあ‥箱じゃあないぜ。何かの建物だ」ハンパない運動量の作業をしていながら、汗一滴たらさず息ひとつ切らせないで木村が言った。
「‥‥‥確かに、そうみたいね‥‥どこかで見たような‥‥‥‥‥」
首をかしげて考え込む委員会の隣、それまで傍観者に徹していたかおりが、指をさしながら口を開いた。
「もしかして‥‥‥‥あれじゃない?」
かおりの指さしていたのは、グラウンドの向こうにそびえている校舎‥そのエントランスの張り出した一階部分だった。
「あ‼」岡目八目のかおりの一言に、かおり以外の全員がぽっかりと口を開けた。
暫く‥・沈黙の時間が流れた。みんなが顔を見合わせていた。
その沈黙を破ったのは俺だった。
「もしかしてこれって‥‥‥‥グラウンドの下に校舎がもう一つ‥‥丸々埋まってるってことなのか?」
次回へ続く